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vol.608-1(2014年6月2日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―35

 「ホウシャノウカラ、コドモヲマモレー! イノチヲマモレー!」「アベシンゾウハ、ゲンパツウルナ! アラブニウルナー! トルコニウルナー! インド二ウルナー!」「オオイ二ツヅケー!」「サイカドー、ハンターイ!」・・・。
 毎週金曜日夕方6時から開かれる、首相官邸前の反原発集会。以上の庶民のシュプレヒコールを、安倍首相を筆頭とした閣僚・政治家・官僚・財界人たちはどう聞いているのか。前首相同様に「大きな音だね」と思っているのなら、私たちは少なくとも官邸前で訴え続けなければならない―。

 官邸前に出向いた、翌日の5月31日。全村避難の飯舘村を去り、福島市近郊の仮設住宅で避難生活を余議される、同年代のAさんと久しぶりに電話で話すことができた。
 「岡さんかあ、ご無沙汰しているけどね、私ら仮設暮らしの者の真実の話を聞いてくんねえか・・・」
 そういいつつ、Aさんは話を続けた。
 「知ってるとは思うけど、漫画(『美味しんぼ』)で双葉町の前町長が被曝した福島の人間は鼻血が出てるって、そう証言したじゃないの。そしたら漫画を見た、知事も県議も国会議員も学者までもが『そんな鼻血などの報告は聞いてない』とか『考えられない』なんて否定していた。でも、どんな根拠からウソだっていえるのか知りたいのは、こっちのほうなんだ。現状を知らない連中が、勝手に否定しているだけじゃないの。
 私なんか、放射能のためだと思うよ。もう鼻血はしょっちゅう出るし、身体は年中だるい。そのうえ下痢でね、1日に3回も4回もトイレに行ってんだ。こんな症状は私だけじゃないよ。仮設に住む者の中には、歯ぐきから血が出るようになったり、指先や関節が痛くなったという年寄りもいる。学者たちは科学的な根拠はないなんていってるけど、みんな原発事故の後から、そういった症状になってんだ。放射能について100%知ってるといえる人間なんか、この世にはいないんじゃないの。岡さんには、そういったことをきちんと取材してね、書いて欲しいのよ・・・」
 Aさんは強い口調で、私に訴えた。続けていった。
 「3月の半ばから2週間ほど中国地方に行ってきたんだ。そしたら山口の人にいわれたよ。『あんた、顔色が悪いよ』って。それで美味いものをいっぱいご馳走になってね。それでここの仮設に戻ったら、仲間の住民に『おお、顔色がよくなったなあ』なんていわれた。でもよ、1週間もしたら前のように鼻血は出るし、体調も悪くなった。美味いものを食っても、なんか金属を舐めてる感じなんだ。
 ほら、私が岡さんに初めて会ったのは、2年くらい前になるよな。飯舘村の役場前で会ったときは『やっぱり、故郷に戻ると体調がいいんだ』なんていったと思う。でも、今は違うよ。3年近く仮設暮らしをしているからだろうよ、飯舘村に帰ると逆に体調が悪くなるんだ。もう私らは故郷からも見放された感じだよ・・・」
 そして、Aさんは吐き捨てるようにいった。
 「未だに安倍首相を始めとする政治家や役人連中は、ことあるごとに『日本人の絆で平和を』なんていってるけど、私らにいわせれば『ふざけんな!』だよ。被災者が“絆”という文字を使用するのはいいけど、あいつらには使って欲しくないんだ。安倍首相は原発を世界中に売って、金儲けしょうとしているしね。何を考えているのかわかんねえ、今の政治家連中は・・・」
 Aさんの話に、私は何度も頷いた。
 鼻血の件についていえば、南相馬市に住む私の知人も3・11以来、月に1、2度の割合で鼻血が出るようになった。病院で診察を受けると、医師に次のようにいわれたという。
 寝ているうちに指で鼻くそをほじくっているんじゃないですか? 小さな傷があるから、それが原因だと思いますよ・・・。

 前回のルポで記述した双葉町の前町長・井戸川克隆さんの言葉を、私たちは肝に銘じるべきではないか。あらためて書く。
 ―放射能に対しては、いくらでも臆病になるべきなんです・・・。

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