雨が降りしきる、6月6日金曜日午後6時前。いつものように首相官邸前に雨がっぱ持参で出向いたが、反原発の集会は行われなかった。仕事を終えたサラリーマン・OLが地下鉄の出入口に足早に向かい、官邸前交差点には雨がっぱ姿の警官がいるだけだ・・・。
翌7日、ネットで「首都圏反原発連合」のサイトを検索すると、その理由がわかった。次のように記述されていたからだ、《[0606 再稼働反対!首相官邸前抗議!]悪天候による中止の情報を拡散していただいたみなさん、ありがとうございました》
正直、私は思った。 いくら頑張っても放射能には勝てっこないが、たかが雨に負けてどうすんの―。 昨日に続き雨に見舞われたこの日、東京・調布市の味の素スタジアムでは“AKB48”の選抜総選挙があり、全国からやってきた実に7万人ものファンが雨がっぱ姿で声援を送ったという。翌8日、1面カラー写真入りで「厳戒・大雨 AKB総選挙」の見出しで報じた朝日新聞を、私は複雑な思いで読んだ・・・。
アイドルグループの総選挙が挙行された、7日の土曜日午後。私はNPO法人「再生可能エネルギー推進協会(略称・REPA)」の定時総会に行った。場所は東京・千代田区麹町区民館―。
すでに昨年11月のルポ24で紹介しているが、REPAのスタッフは3・11以来、毎月のように福島市に隣接する伊達市霊山町下小国地区に出向き、住民とともに『霊山プロジェクト』―「水田除染プロジェクト」と「メタン発酵プロジェクト」による復興支援活動を展開。とくに放射性物質で汚染された雑草・野菜・果物などを発酵させ、新たなエネルギーであるメタンガス再生を成功させている。
また、下小国地区はいち早く放射線マップを作成し、住民に避難を呼びかけて、除染作業に取り組んできた。
以上の活動が高く評価され、昨年11月からは復興庁の「新しい東北」先導モデル事業にも取り組むようになった。 雨の中、遠く伊達市から駆けつけた世話人のOさんたちも出席した定時総会は無事に終了。その後は、REPAスタッフが懇意にする、慶應義塾大学環境情報学部教授・武藤(たけふじ)佳恭さんの講演会が開かれた。
「私を“ムトウ”と呼んだ際は、すぐに退席していただきますよ・・・」 武藤さん自身がそういって始まった、実演を交えた講演はわかりやすく、すべてに興味をそそるものであり、次のような話も披露してくれた。取材ノートから要約したい。
―各家庭にはガスレンジがあり、その性能を毎時5500キロカロリーとした場合、1リットルの水(8.3℃)を100℃にするには1分の時間を要します。1カロリーとは1グラムの水を1℃上げるエネルギーです。ところが、実際は沸騰するまで10分ほどの時間がかかります。つまり、9割の熱エネルギーを無駄にしているのです。ガスレンジが日本で開発されてから100年以上経っていることを考えれば、ガス屋はもっと効率のいいガス器具を開発すべきなんですが、お金儲けを優先しているためにサボっている。この話をテレビ番組の収録の際に話したのですが、放映のときはすべてカットされました。理由は番組のスポンサーがガス会社だったからです。こういった話をもっと詳しく知りたければ、私の著書を読んでください・・・。
その日の夜、さっそく私はネットで『武藤博士の発明の極意』(近代科学社刊)を購入。昨日届いたので読んでいる最中だ。
武藤さんのユーモアあふれる話に、私は何度も頷いた。こうもいった。再び要約する。 ―日本人の多くは頭を使って作業していません。とくに官僚は情報を持っていないため、作業はするものの頭を使えない。そこに日本が元気になれない大きな1つの原因があるのです。たとえば、私は政府機関の専門委員会やプロジェクトチームのメンバーに選ばれたことが何回もあります。会議に出席すると、あるときは漆塗りの器に入った弁当が用意され、スープも付いてきます。会議が終わるとパーティがあり、帰りには車も付き、メンバーたちは逆に「勉強になりました・・・」とかいって、頭を下げて帰宅するのです。しかし、私の場合は会議で本音の発言をしてしまうためでしょう、決まって『武藤さんは次回から出席しなくともいいです』なんていわれてしまいます・・・。
それでも工学博士の武藤さんの研究室には、多くの人たちがアイデアを求めて日参しているという。ちなみに携帯電話にカメラを付けることを提案したのは武藤さんである。「勉強になった」講演は2時間に及んだ。
雨で官邸前での反原発の集会が中止になった、梅雨入りを迎えた6月第1週目はいろんなことがあった。 5日には2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の理事会が開かれ、政・官・財やスポーツ・芸能界などから170人を選出。被災地の岩手・宮城・福島の3県知事も加わえるという、新たな顧問会議を発足させた。
しかし、会長や議長を務める、元首相や現首相の好みでノミネートされた組織委員会や顧問会議の、イエスマンだけのメンバーに何ができるというのか。無報酬だというが、それを考えればなおさら忌憚のない意見などは期待できないだろう。単なる顔合わせの会議のたびに漆塗りの器に入った豪華な弁当を食べ、帰りはハイヤーが用意されるかもしれない。早い話が血税の無駄遣いだ。
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