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vol.622-1(2014年11月13日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―48

 この10日で65歳となり、ついに来年2月から年金が受給されるという。が、月に約6万円。まあ、いただけるだけでよしとするか。
 それにしても最近の私は、不思議にも11月10日や前日の9日に生まれた人に会っている。この9月に女子野球ワールドカップで4連覇を果たした、日本代表チームのキャプテン・Sさんは9日生まれだった。
 そして、今週取材したHさんも9日生まれだ。2ヵ月前にもお会いしているが、今回も国立競技場の解体や新国立競技場建設について話が及ぶと、どう考えても納得できないといっていた。
 「8万人も入る大きな屋根付の競技場を、それも緑豊かな明治神宮外苑に建設するのはいけません。私は反対です。“復興オリンピック”といっても、原発事故もまだ解決していないんでしょ・・・」
 今もスポーツジムに通う89歳のおばあちゃん、Hさんが強い口調になるのも無理もない。50年前の東京オリンピックの際は、国立競技場での陸上競技の役員を務めているだけでなく、戦時中の全日本陸上競技大会や神宮大会で100bと200bに優勝しているトップアスリート。明治神宮外苑は思い出深い地だからだ
 「当時は国立競技場が建設される前だから、明治神宮外苑競技場といっていたのね。戦時中は鉄が不足していたため、スパイクシューズ使用は禁止され、足袋で走ったの。それに、スターティングブロックもない時代で、園芸用シャベルで穴を掘って、そこに両足のつま先を入れてスタートする。だから、決勝になるともうスタートするところは穴ぼこだらけ。一応、埋めますけどね。明治神宮外苑は私の思い出の地なんですよ・・・」
 戦後は高校の保健体育教師になったHさんは古いアルバムを手に、私に戦前・戦後のスポーツ事情について詳しく伝えてくれた。

 大正11年11月10日生まれ。国立競技場に隣接する、都営霞ヶ丘アパートに住むKさんも、92歳を迎えても矍鑠としている。Hさん同様に、元気なおばあちゃんだ。
 「大正11年の11月10日だから、私は何でも1番が好きなのね。結婚したのは天皇陛下と同じ年の昭和34年で、それ以来ここに住んでいるの。だから、ここの住民の中では1番の古株じゃないかしら。でもね、私は37歳で結婚して、相手は再婚でしょ。私は2番手だったのよ・・・」
 そういって苦笑するKさんとは、都営霞ヶ丘アパートの老人会を取材した際、お会いした。私は聞いた。
 「Kさん、若さを保つ秘訣は何でしょうか?」
 「そうね、それはそこにいらっしゃるJさんご夫妻とご一緒してね、小学校に出向いて、子どもたちと遊ぶことかしら。Jさんが昔の遊びを教えてくれて、一緒にゲームをするの。そうして子どもたちから若さをいただいちゃうの・・・」
 再びKさんは、そういって微笑み返した。10月30日で81歳を迎えたJさんは傍らで、Kさんと話す私を見て頷いていた。
 都営霞ヶ丘アパートに住むお年寄りは多い。しかし、当然のごとく新国立競技場の建設が始まれば、立ち退きを強制される。
 すでにこのフクシマルポで書いているが、とくにJさんは50年前の東京オリンピックの際も、それまで住んでいた明治公園の地にあった家を追われ、都営霞ヶ丘アパートに住むようになった。
 そして、50年後の今、再び2020年開催の東京オリンピックのため、立ち退きを迫られている。
 「何度も話を聞きにきてくれる、岡さんには本音をいえるけど、オリンピックは好きですよ。だけど、東京オリンピックは大嫌いだね。今度の東京オリンピックは“復興オリンピック”なんていう。でも、私の亡くなった両親の生まれ故郷の福島は、未だに放射能で大変ですからね。復興なんて言葉は簡単にいっちゃあいけないと思う。まずは、被災者のことを考えなくちゃあ。もちろん、立ち退きを迫られている、私たち年寄りのことも考えてくれなきゃ困るよねえ・・・」
 いつも柔和な顔で取材に応じてくれる、Jさんの言葉は重い。
 この11月9日に新宿区長選が行われたが、当選した42歳の新区長は都営霞ヶ丘アパートの住民移転についてどう対処するのか。

 11月9日は「いいくうき」ということで“換気の日”だとか。そして、翌日の私の誕生日の10日は、なんと「いいといれ」で“トイレの日”なんだと。それはないんじゃないかなあ・・・。
 そこで私は、あえて提言する。11月10日は、50年前の東京オリンピックで選手団長兼選手強化対策本部長を務めた、大島鎌吉(けんきち)が生まれた日(1908=明治41年)。よって“大島鎌吉の日”としたいが、どうだろうか。
 戦前のロサンゼルス・オリンピック三段跳でメダリストになった大島は、近代オリンピックの創始者・クーベルタンのオリンピック・モットーを初めて日本に紹介。“跳ぶ哲学者”といわれ、さらに“東京オリンピックをつくった男”と呼ばれていたからだ。
 期せずして、先週の11月4日から、大島が勤務していた毎日新聞が『五輪の哲人 大島鎌吉物語』の連載を開始した。毎週5回(火曜〜土曜、朝刊)、12月半ばまで35回にわたり、「大島思想」がアピールされるのだ。
 2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に浮かれ、国立競技場を解体し、2000億円を超えるといわれる新国立競技場を建設することしか頭にない、関係者たちはこぞって読むべき連載記事だ。読めば自分たちが何をすべきか、自ずとわかるだろう。書き手は運動部編集委員の滝口隆司さんである。
 ちなみに、翌日の11月11日は“介護の日”“磁気の日”“めんの日”などといわれる。が、毎月11日は3・11が起こった日。そのことを私たちは忘れてはいけない。この11日で、3・11から3年8ヵ月が経った・・・。

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