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vol.623-1(2014年12月19日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―49

 先月の11月。俳優の高倉健さんの後を追うように、菅原文太さんも逝った・・・。  もう20年以上も前だ。私は1年2ヵ月間に亘り、文太さんにお世話になっている。「週刊アサヒ芸能」で文太さんが連載していた人生相談の構成を担当していたためであり、お会いするたびに多くの心に残る言葉を伝えてくれた。私は次の言葉が好きだった。
 ―政治の世界は茶番劇が好きだな。多数派閥に顔を向けりゃあ総理大臣になれ、国民に顔を向けりゃあソッポを向かれる。アベコベだわな、いまの政界は。カタギの世界のほうが乱れとるよ・・・。
 晩年の文太さんは沖縄基地問題に取り組み「反戦」を力説。「脱原発」を掲げ、10月の福島県知事選挙の際は聴衆を前に「(原発問題を)何とかしましょうよ」と訴えていた。代表作の映画『仁義なき戦い』では、舞台となった広島の原爆ドームが写し出されている。合掌

 先週の11日で3・11から3年9ヵ月。が、フクシマの状況は何ら変わらない。何度も繰り返すが、飛散した放射能は消えないのだ。
 衆議院議員総選挙日の4日前の10日。いつものようにJR福島駅西口前からバスに乗車。飯舘村経由で、JR原ノ町駅前で下車。実家に行くと、老母が庭の柚子の木をさしていった。
 「今年も柚子は放射能でダメだ。みんな原発のせいだよ。東京では1個100円くらいでねえが・・・」
 この夏までは元気に飛び回っていた、老父が長年飼っていたミツバチもついに全滅した・・・。
 ともあれ、南相馬市の中でも放射線量が高く、ホットスポットが多い石神地区に出向いた。道路や民家の除染は終わったが、基準値の毎時0・23マイクロシーベルトからは大きくかけ離れている。

 「先月だったな。浪江町の田んぼで作った試験米を環境大臣が『美味いなあ』といって、小さな茶碗で食ってんのをテレビで観たけど、だったら『毎日、丼で朝昼晩と食ってみろ』といいたかった。私ら百姓は3食ごはんを食わなきゃ生活できねんだから。とにかく、国も役所も信じられねえ・・・」
 顔見知りのお年寄りは、私にいきなり怒りをぶつけていった。
 「こないだね、この地区の集会に役人がきて『もう除染したから子どもが住んでも大丈夫だ』といったから、文句をいったんだ。『ホットスポットがあっから、避難先から孫たちは呼べねえ』って。そしたら役人が『柵をして入れないようにすればいい』といったんで、ごせやけた(頭にきて)から『じゃあ、お前が子どもと一緒に住め』といってやったんだ。そしたら黙り込んだけどな・・・」
 石神地区は11月から農地除染が始まった。除染する復興作業員に声をかけると、気軽に取材に応じた。
 「いくら農地を除染しても、雨が降れば山から放射能で汚染された水が流れてくる。まあ、こうして線量計を首からぶら下げて作業するのもおかしなことだけど、住民たちは『放射能に慣れた』なんていってる。なんか狂ってるよねえ・・・」
 そう語る作業員に、私は聞いてみた。
 「夜は町に出て飲んでますか?」
 「いや、私は下戸だし、仲間も他の作業員や住民と問題を起こしたくないため自粛してる。かなりの人数の作業員が全国各地からきているしね。住民よりも作業員のほうが多いんじゃないか・・・」
 他県の農協から派遣されたという、作業員の彼はそういった。
 実はメディアはほとんど報道していないが、原発禍の南相馬市の住民がもっとも恐れているのは作業員が起こすトラブルに巻き込まれることだ。すでに前々回のルポ47でも書いたが、地元住民は作業員を怖がっているのだ。
 私はあらためて飲食店の店主や従業員たち、さらに住民から話を聞いた。以下の証言を得ることができた。
 ―私の知合いの女性がパートで働くコンビニの近くには、警察署があるから大丈夫らしいけど、作業員が宿泊する近くのコンビニは怖いといってた。セクハラ発言なんかはざらだって。だから、夕方5時以降は若い女性は働けないって・・・。
 ―私は夏まで別の店で働いていたんですけど、飲みにくる作業員が怖かった。その点、この店は常連客が多く、時給も1000円と高い。それに賄いも付くしね。でも、帰宅するときは一緒に働いている女性と駐車場まで行って、車に乗ったらすぐ鍵をかけます・・・。
 ―11月下旬からは忘年会が多いためでしょうね。夜になるとパトカーがよく走ってる。それも福島県警だけじゃなく、最近は山形や秋田県警のもね。よそ者の作業員が多いため、警察も警戒してると思う。震災前はそんなことなかったですから・・・。
 ―やっぱり、初めて顔を見せる作業員がきたら「もう予約席でいっぱいです」といって断りますよ。別に関西人を悪くいうんじゃないけど、関西弁でしゃべられたら怖いですよ、私ら福島県人にとっては。作業員の中にはイレズミしたヤクザもいるし・・・。
 ―何でも高齢者の女性が作業員に襲われて、裁判沙汰にしょうとしたら、建設業者が間に入って示談にしたっていう話もあるよ。それに知合いの高校の先生がいってたけど、女子高生に声をかける作業員が多いらしく、夜の1人歩きは絶対にしないように指導してるって。また、病院関係者から聞いた話だけど、作業員の中にはクスリをやってる者がいるんだってね・・・。
 話は尽きない。もちろん、すべての作業員がトラブルを起こすとはいえず、快く取材に応じる前出のような気さくな作業員も多いだろう。しかし、住民が作業員に脅されている現場を目撃している私には、単なる噂話とは思えないのだ。
 以上の話を同業者の知人に伝えると、こう表現した。
 ―米軍の犯罪が多い沖縄に似てきたなあ・・・。
 今回のフクシマ取材は2泊3日だったが、さらに驚くべきことを知った。このことについては次号で書きたい。

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