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vol.624-1(2014年12月29日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―50

 フクシマは放射能の中に放置されたたまま、4度目の新年を迎えようとしている。
 昨日の28日、政府は原発禍にある南相馬市の放射線量が高い「ホットスポット=特定避難勧奨地点」(年間積算線量20_シーベルト)の152世帯に対し、解除することを通告した。1週間前の21日に開かれた、政府の原子力災害現地対策本部の説明会によると、あくまでも「現線量でも健康影響は考えにくい」と決めつけ、高線量の中での生活を余儀なくされる住民の声を完全に無視。解除に踏み切ったのだ。
 また、1週間前の20日だ。とんでもない事実が判明した。東電は福島第1原発4号機の使用済み核燃料プールから燃料取り出しを計画通りに完了したと発表した。が、炉心溶融を起こした1〜3号機の溶融燃料はおろか、プール内の燃料の取り出し作業にも着手できないでいるのだ。21日付の毎日新聞によると、同原発の小野寺明所長は次のように語ったというから驚いてしまう。
 「(廃炉工程全体を100里とすると)まだ1里。非常に小さな1歩だが、きちっと一里塚を超えたのは価値がある。(以下略)」
 私はこの所長のコメントを読んで、腹が立つというよりも呆れた。来年3月で丸4年が経つ。それなのに廃炉までの収束率はたったの1%。未だ放射性物質は飛散しているのだ。
 以上がフクシマの現状である―。

 前号で記したように、私は12月10日から12日まで南相馬に出向いた。11日はホットスポットの地区の農地除染を取材し、6日に開通した常磐高速道路の南相馬市と浪江町間の約20キロを車で走った。予想はしていたものの、あらためて驚くべき事実を知ったのだ。
 世界初と思われるが、なんと高速道路の路肩には放射線量計が掲げられていた。それも浪江インター近くの地点の放射線量は、基準値の毎時0・23マイクロシーベルトを大幅に超える、1・30マイクロシーベルトだ。それでも通行させるというのはどういう政府の考えなのか。ご自由に被曝してくださいといいたいのだろうか。
 「1・3マイクロシーベルト? それは低いほうじゃないですか。ここは帰還困難区域のため、2から3くらいありますから・・・」
 通行料金650円也を徴収する、料金所の係員は真顔でそういった。正直、私は「みんな放射能で麻痺してるな」と思った。
 浪江インターを降り、国道6号線に向かう途中。スクリーニング所を見つけたため、車のタイヤの放射線量を計測することにした。
 「タイヤの表面汚染は300CPM以下ですから大丈夫ですね」
 そういう担当者のオジサンに、私は尋ねた。
 「でも、ここの放射線量は毎時0・73マイクロシーベルトでしょ。除染したといっても高いじゃないですか?」
 それに対して、オジサンはこういった。
 「いや、0・73は低いですよ・・・」
 嗚呼、このオジサンも放射能で麻痺してしまったのか。
 原発事故以来、原発から約5キロ圏内を通る国道6号線は通行制限されていたが、今年9月からは自動二輪車・原付自転車・軽車両・歩行者以外は誰でも車で通ることができるようになった。
 ともあれ、国道6号線に出て東京方向に走ると10分ほどで双葉町に着く。左手に双葉厚生病院が見える。原発事故が起こった当時、寝たきりのお年寄りたちがバスやヘリコプターで避難所に搬送されたが、力尽きて亡くなったお年寄りも多かった。合掌・・・。
 そして、双葉町から大熊町に入った瞬間だ。持参したウクライナ製の線量計のブザーが鳴りだした。それまでは毎時0・5から0・8マイクロシーベルトだったが、一気に6・80マイクロシーベルトを測定したからだ。これまで私は5マイクロシーベルト前後までは体験しているが、6を超えたのは初めてだった。がく然とした。
 こんなに放射能で汚染されている道路を自由に通れるとは。政府や政権は一体何を考えているんだ―。
 太平洋側の第1原発まで約2・5キロ地点。遠くに排気筒や廃炉作業の大型クレーンが見える。車から降りた私は、検問をする警備員に話しかけた。
 「こんな高線量の地点での仕事、怖くないですか?」
 「怖いと思ってたら、仕事はできねえべ。ここよりも原発事故が起こった当時は、6号線沿いの大熊町の総合スポーツセンターや(JR)大野駅あたりが一番高かったんじゃねえの・・・」
 背中に“原子力災害現地対策本部”と書かれた雨合羽姿の警備員はそういいながら、続けて語った。
 「こうやって話をしているところを警察に見つかると、あんたは職質されるよ。こないだなんかはあそこの民家を写真に撮っていた者は1時間以上も職質されていた。気をつけたほうがいい」
 「ありがとうございます。後姿を写真に撮っていいですか?」
 「いいよ。撮ったら帰ったほうがいい」
 検問所の警備員は2人1組で、30分交替で警備に立つという。しかし、近くに詰所はなく、設置されているのは簡易のトイレのみ。屋外と変わらぬ放射線量が測定される、車内で休憩を取っているという。それも午前9時から午後5時までの8時間も。放射能が怖くないというのは本当だろうか
 さらに国道6号線を南下し、富岡町に着いた地点でUターンして南相馬に戻った。
 その晩、放射線量が6・8マイクロシーベルトを測定されたことを、飲み屋で会った客に話すとこういった。
 「6・8は高いほうだと思うけど、みんな放射能に慣れたというか、麻痺してんだよ。俺もそうだけどね。でも、国道6号線が通れるようになっても、子どもを車に乗せて走る者はいないと思うね・・・」
 放射能に慣れてしまった、麻痺してしまった―。
 以上のような言葉を、私はこの1年間に何度も聞いた。国の思うつぼである。

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