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vol.597-1(2014年2月24日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

五輪に登場した「新型」の主役たち

 フィギュアスケート・浅田真央の演技に対する森喜朗元首相・東京五輪組織委会長の「あの子、大事な時に必ず転ぶ」という発言をめぐり、その講演会の書き起こしがTBSラジオの「荻上チキ・Session―22」という番組のウェブサイトで紹介された。
http://www.tbsradio.jp/ss954/2014/02/post-259.html

 浅田に対するコメントはいかにも世間話のようで、トップアスリートに対する敬意に欠けるのは明らかだ。ただ、それとは別に、全文を読んでみて、興味深い発言が別にあることにも気がついた。
 「男の子の15歳の子と18歳ですか、2人が銀と銅とりました。あれもスノーボードですか。なんかおもしろい、ああいうのは僕らの時代なかったですよ。サーカスみたいな」と述べた後で、森氏は競技団体の関係者が気になるような言葉を口にしている。

 「あれも自分たちで勝手に、日本でやってても面白くないからアメリカでやってるんですね。アメリカとかカナダでやっているわけですね。そういうのがふぁっと出てきて、すっと優勝さらっていってしまう。日本の連盟にも登録してやったろうかなと思うくらいの名前も聞いたことないような若者が出てきて、さーっと世界と堂々と戦っていくなんていうのを見てると、どうも日本の各競技団体のやり方が本当に正しいのかどうか。もっと自由奔放にやらせたほうがいいのかなという感じもいたしますが」

 五輪に採用されているスノーボードやフリースタイルスキーの種目は、上級者の遊びとして発展したものであり、競技性よりもエンターテインメント性が高い。18歳の平岡卓、15歳の平野歩夢という2人のスノーボード・ハーフパイプのメダリストが主に米国で腕を磨いていた「Xゲーム」の世界は、エクストリームスポーツという刺激性の高いスポーツだけを集めた総合競技会であり、米国のスポーツ専門テレビ局「ESPN」が始めた賞金大会としても知られる。

 彼らは、「従来型」ともいえる五輪競技とは異なる世界に生きている。国別のメダル争いや競技団体による選手強化といった考えとは縁が薄く、スポンサーマネーとテレビマネーを支えに世界でファン層を広げるプロだ。しかも10代から世界のトップレベルで評価を受けている。アクロバティックさを売り物にするだけに安全性への視点が乏しい印象は否めないが、そのような競技の選手が、五輪の主役になる機会が増えてきたことはソチ五輪の特徴だ。

 森氏の発言に戻れば、「日本の各競技団体のやり方が本当に正しいのかどうか」という指摘は急所を突いているように思える。毎日新聞紙上でスピードスケートの解説をしてもらった井上純一さん(1992年アルベールビル五輪銅メダリスト)は「長野五輪の遺産消滅」と評していた。スピードスケートで日本はメダルゼロに終わったが、実業団や日本代表といった従来の枠組みでの強化では、世界に太刀打ちできない時代に入ったことを何よりも関係者は痛感しているのではないか。サーカスと揶揄するのは簡単だが、ソチ五輪に登場した「新しい主役たち」の世界を研究することで、何か打開策のヒントが見えてくるかもしれない。

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