昨年6月に国立競技場解体に伴い、運営・管理するJSC(日本スポーツ振興センター)はいろいろな撮影記録業務をNHKエンタープライズに委託した。その落札価格は1893万6720円だった。毎日、撮影クルーが解体作業を撮り続けている。
5月半ば、空を見上げると小型無線機「ドローン」が飛んでいた。もちろん、空撮のために撮影クルーが飛ばしているドローンだが、こんな話もあった。3月半ば、300dの大型クレーン車で足場が組まれ、鳶職人たちが照明灯を解体するときだ。NHKエンタープライズと解体業者が2機のドローンを飛ばしていたところ、突然見知らぬドローンが現れて空撮を始め、関係者は「業務妨害ではないか!」と色めき立つこともある。
ともあれ、基礎の下に打ち込まれた1万本に及ぶコンクリート製のペテスタル杭の撤去作業は終わっていないようだが、国立競技場はほぼさら地の状態になりつつある。南工区の顔馴染みの作業員が言った。
「こうして上からも下からも撮影されているため、手抜きなんかできないのよ。毎朝、7時45分からの朝礼では元請けの現場監督に『周りのビルの屋上にもカメラが設置されているからな。バカな行動はすんなよ!』と言われる。まあ、ちょっとした怪我をする者はいるようだが、大きな事故は起きてないね・・・」
南工区の場合、多いときは1日62台の10dトラックが瓦礫や土を4回転で、神奈川・東京・千葉・埼玉の廃棄物処理場に運ぶ。 「まあ、他の現場なら1台に14d以上積むこともあるが、国の仕事だから違反はできない。積んでも12dまでだよ。道路に土を落とすものならすぐに文句の電話が入るんだ・・・」
予定通り9月末にはすべての解体が終了するという。 隣接する明治公園・霞岳広場と日本青年館はどうか。霞岳広場は壁で囲まれていて中を見ることはできない。が、隙間から覗くと移植に1512万円が費やされる推定樹齢350年のスダジイはまだ移植されていなかった。遺跡調査をする作業員が教えてくれた。
「6月中には移植すると業者が言ってたが、トラックに積んで運ぶためだろうな。交通量の少ない真夜中でないと警視庁は許可しないらしい。移植作業を見たいと思っていたけど、真夜中じゃ見れねえな・・・」
半世紀前の東京オリンピック開催の際、明治公園の植栽を手がけた植木職人のAさんを取材したのは1年以上前だ。移植について私にこう語った。 「樹齢100年、200年の樹木を移植する際は“立て曳き”といって、横にせずに立てたままトラックに乗せて運ぶ。そして、新たな土地に植えるときは、元と同じ方角を向かせたまま赤ちゃんを抱っこするようにね。環境が変わるため、丁寧に植栽しないと死んでしまう。樹木は繊細ですから・・・」
すでに日本青年館は内部が解体され、足場が組まれた外壁も6月中に解体されるという。
学生時代の私は「少年マガジン」や「朝日ジャーナル」を手に国立競技場のスタンドに寝転がっていた。1箇所だけ鍵の掛かっていない門があり、そこから中に入ることができたのだ。そして、70年安保のときは霞岳広場から日比谷公園まで「アンポハンタイ!」と叫びつつデモる。そういえば過激派セクトが仕掛けた爆弾騒ぎもあったが、明治公園はプロテストの場だった。あれから40年以上の経つ今、新国立競技場建設とともに我が青春の数ページは否応なしに奪われる。嗚呼!
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