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vol.648-1(2015年9月25日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―61

 この夏、少年時代に海水浴を楽しんだ北泉海岸に何回となく行った。南相馬市の北泉海岸は日本有数のサーフィン・ポイントであり、プロの世界大会が何度も開催されている。
 もちろん、3・11後はサーフィンの大会はまだ開催されていないが、今では多くのサーファーがやってくる。サーファーの写真を撮る夫婦もいれば、海水浴を楽しむ父娘、犬を散歩させる女性、海水や砂の放射線量を測る市役所職員の姿も見かけた。
 しかし、砂浜に座って海を見つめていても「この海は多くの命を奪ったんだ・・・」と思ってしまう。3・11では南相馬だけでも636人の命が津波と地震で奪われ、さらに原発事故で478人が原発事故関連死と認定されたからだ(9月8日現在)。
 そのような思いを馳せていると、背後から声をかけられた。
 「私と話してくれないか・・・」
 振り向くと40代半ばのジーンズ姿の男性だった。原発から10`圏内の浪江町で働く除染作業員だと名乗り、日当7500円、危険手当1万円の日雇いで働いているという。休日のためサーフィンを見にきたといった。
 「日当も危険手当も2万、3万と出ているはずなんだが、私らは孫請に雇われている身だし、元請のゼネコンに搾取されるのはしょうがない。まあ、日当の最低保証は6800円と決められているみたいだから、7500円は普通じゃないかな・・・」
 私たちは肩を並べ、サーファーを眺めながら話をした。私は尋ねた。
 「除染作業員の中には暴力団関係者と思われる人が多いと聞くけど、実際はどうですか?」
 それに対し、彼はいった。
 「たしかに多いです。見るからにヤクザ者とわかる者もいるし、イレズミをした者も多い。県外からきている作業員はわけありの連中で、問題を起こすのはそいつらですよ。毎週月曜の朝礼のとき、ゼネコン関係の責任者がいいますよ。『先週も警察に世話になった者がいる。気を付けろ・・・』なんてね・・・」
 もちろん、このことに関しては警察署も市役所も作業員の実態を把握している。一昨年暮れに「南相馬市復興事業等・地域安全連絡協議会」を発足。ゼネコンと連携し、犯罪防止に努めているという。今年の春に南相馬警察署に出向くと、担当官が取材に応じていった。
 「たしかに事案が多いのは事実。そのため建設会社には作業員の教育を徹底して欲しいと要望を出し、我々は他県の警察の協力を得て、24時間体制でパトロールを強化している・・・」
 北泉海岸で知り合った除染作業員の彼は私に、現場の実態を伝えてくれた。こうもいった。
 「俺たちは線量計をぶら下げて放射能まみれで作業しているしね。ストレスが溜まる。本音としてはこんな作業はやりたくないです・・・」
 この言葉は原発禍の地で働く、復興作業員全員の思いかもしれない。とくに除染作業員の年間被曝線量は50_シーベルトまでであり、一般公衆の50倍の線量なのだから・・・。
 ただし、1万人以上の復興作業員が滞在しているという南相馬の場合、一部の作業員の言動に市民が脅えているのも事実だ。取材を進めると若い女性に限らず、高齢者もレイプされた。駅前通りを歩いていたら殴られた。コンビ二の女性店員が執拗に交際を迫られた、といった話も耳にした。単なる噂話とは思えない。私自身、実際に作業員が市民を脅す現場を目撃しているからだ。
 昨年7月7日夜、市内のラーメン屋にいたときだった。突然、二の腕にイレズミをした2人の作業員が親子連れを相手に因縁をつけたのだ。
 「ガンをつけたやないか。どないするんや!」
 咄嗟に私は作業員が乗ってきたワゴン車のナンバーをメモし、ポケットの中で携帯電話を握った。怒声を浴びせて作業員が帰った後に父親に聞いた。
 「どうしたんですか?」
 「さっきまで近くの店にいたんですが、2人が大声で喋っていてうるさいので、咳払いをした。それが気に入らなかったみたいです・・・」
 小学生の娘は、そう語る父親と母親の手を握って震えていた・・・。

 この夏から、私の実家周辺の除染作業が始まった。眺めていると、なんかおかしいのだ。宅地除染の場合は、まずは高い屋根のほうから除染すべきだろう。ところが、マスクをした作業員たちは宅地周辺の側溝から始め、道路に出した放射性物質が含まれた土をほうきで掃いている。雨の日はまだしも、天気のいい日には砂ほこりが舞い上がる。知人によれば、除染作業中の道路をマスクなしの子どもたちが通り過ぎるというのだ・・・。
 除染に励む作業員の姿を眺め、私は心の中で叫んだ。
 被曝させるための除染などしないでくれ!

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