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vol.652-1(2015年10月23日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―64

 《近い将来、南相馬は間違いなく「姥捨て山」になってしまうだろう》
 原発事故が起きた当時、私に地元在住の高校時代の友人はそういった。人口7万1500余人の多くは放射能を恐れて避難し、残った市民のほとんどがお年寄りだったからだ。
 あれから4年7ヵ月が過ぎた。南相馬の人口(住民基本台帳、9月10日現在)は6万4000余人に減少。そのうち1万1000余人は未だ県内外に避難し、市内居住者は4万7300余人である。また、人口の6・5%に当たる約4200人は所在不明者(死亡者を含む)になっているというから驚いてしまう。
 そして、さらに驚くべきことは65歳以上の高齢者は2万人を超え、人口の高齢化比率は31・3%ということだ。これは約26%の全国平均を大幅に上回っており、原発禍にある南相馬はすでに「2025年問題」を迎え、知人が危惧したように姥捨て山状態になっている・・・。

 《毎回、きちんと介護保険料を払っているのに介護を受けることができない。どういうことなんだ!》
 この夏から私は、頻繁に故郷・南相馬に出向いている。そのたびに以上のような声を耳にする。89歳の老母と暮らす、自営業の知人はいった。
 「岡よ、俺は情けなくなった。おふくろは圧迫骨折で入院した。正直、そのときは女房と2人して喜んでしまった。おふくろが家にいると介護で仕事もろくにできないからな。おふくろは要支援2≠フため、デイサービスを週2日は受けられるはずだけど、施設が満杯で受け入れてもらえない。そんなときに入院してくれたから、助かったんだ・・・」
 頷く私を前に、知人は続けていった。
 「3・11後の南相馬の病院は医者も看護師も少ないため、なかなか入院することができない。たとえベッドは空いていてもスタッフがいないためにな。まあ、おふくろは運よく入院できたんだが、2週間で退院した。そんときは俺も女房も複雑な思いだった。本来なら赤飯でも炊いて祝ってやんなきゃいけないのに。すべては原発事故のせいだよなあ・・・」
 知人によると89歳の老母は真夜中に起きては困らせる。日中はここが痛い、あそこが悪いといっては仕事を邪魔する。怒りを抑えながら諭しても効果はなく、夫婦はノイローゼ状態だったという。

 《介護施設に入るには順番待ちです。待機している高齢者は延べで2000人を超えています・・・》
 私は市役所に行った。長寿福祉課の担当者によると南相馬には3・11前までは、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)を含めた入居系介護保険事業所施設は15カ所、680床が稼働していた。私の実家から車で約5分、海岸から2`ほど離れた場所に位置していた介護老人保健施設(老健)のヨッシーランドは、258床を誇っていたが津波に襲われ、36人の尊い命が奪われた・・・。
 3・11から4年を過ぎた現在、5施設207床が休止となっている。担当者は肩を落として説明した。
 「2年前の8月に260床あった特養(介護老人福祉施設)のベッド数40ほど増やしたんですが、スタッフ不足により20床しか稼働できません。とにかく、介護するスタッフが集まらず、2000人以上のお年寄りが待機する事態になっているんです。青森県や群馬県の自治体から『こっちは空いています』といった売り込みはありますが、やっぱりお年寄りは故郷を離れたくないみたいです・・・」
 翌日、私は実家近くの私立のサービス付き高齢者向け住宅に出向いた。責任者が取材に応じた。
 「表現はよろしくないのですが、入居者が亡くならない限り、次の人は入居できません。デイサービスの場合は、被災地においては厚労省の行政指導で緩和され、ここは1日10人以内しか受け入れることができない規定でしたが、今は18人を受け入れています。南相馬の状況を思えばもっと受け入れたいのですが、残念ながらスペースが狭いうえ、どこの施設でもスタッフが集まらないわけです。子育て世代の若いスタッフは、原発禍にある南相馬では働きたくないですから・・・」
 30代の責任者は私に「この状況を福島以外の人たちに知って欲しい」と訴えた。

 10月中旬、南相馬に1週間滞在した私は埼玉の自宅に帰ることにした。前夜、実家で老母を介護する兄夫婦と食事した。
 「いくら首相官邸前の反原発集会で『フクシマを返せ!』と叫んでもダメだ。これからは国に『フクシマを買ってくれ!』というべきじゃないか・・・」
 老母に「可愛いお婆ちゃん」として日々を過ごして欲しいと願う兄は、厳しい顔でいった。

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