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vol.662-1(2016年1月7日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―69

 テレビのスイッチを入れるとニューイヤー駅伝が中継されていて、ちょうど母校・原町高OBの今井正人が5区を走っていた。所属するトヨタ自動車九州は優勝を逃して3位だったが、順天堂大学時代に山の神≠ニいわれた箱根駅伝での勇姿を思いだした。
 今井は南相馬市小高区生まれ。原発から20`圏内の海側に位置し、3・11の際は津波に襲われ、実家に預けていた大事な賞状や記念品、写真類が流されてしまったという。さらに昨年夏の世界選手権男子マラソンを髄膜炎で欠場を余儀なくされたのも、人生における試練だったに違いない。
 そのような今井に対し「今年のリオ・オリンピック出場権を是が非でもものにして欲しい」というのが応援する故郷の人たちの思いだ。JR原ノ町駅前の時計台には写真とともに「今井正人 GO!リオ」の看板が掲げられている。

 ともあれ、2016年の新年が明けた―。
 しかし、3か月後に3・11から6年目を迎えようとしているにせよ、福島県浜通りの原発禍にある被災地はなんら変わらない。住民は、あの鬼平≠ナさえもお手上げしてしまう、眼に見えない極悪人の放射能に苦しんでいるのだ。
 南相馬市の海岸線を縦断する国道6号線を南下。原発事故を起こした東電福島第1原発に向けて車で走り、持参した放射線量計を見ると8?シーベルト(毎時)以上が表示された。基準値は0・23?シーベルトであるため、30倍以上の放射線量だ。これでは当局が「除染は確実に進んでいます」と力説しても誰も信じない。
 驚くのはそれだけではない。国道沿いには『事故多発 牛と衝突』『獣と衝突』などと書かれた南相馬警察署や双葉警察署とともに、磐城国道事務所が掲げた立看板を見ることができる。飼い主を失って野生化した牛や、餌を求めて山から下りてきたイノシシなどが夜な夜な姿を現し、走る車に体当たりするのだという。
 昨年12月9日。南相馬市役所に出向いた私は市議会を傍聴した。運よく農業を営む議員が「有害鳥獣対策について」市役所側の市民生活部長と経済部長に訴えていた。
 ―女性に噛みつくイノシシや猿もいる。通学路にイノシシが出現する恐れもあり、児童の安全を確保すべきだ。それにアライグマやハクビシンも増えている。とくに人に噛みつくアライグマは狂犬病のウイルスを持っているため、この上なく危険だ。また、放射線量が高いイノシシや猿などを捕獲した場合、単に埋めたり、焼却して処分するだけでいいのか。市の考えを伺いたい・・・。
 以上のような訴えに対し、市役所側は次のように応じていた。
 ―作つけ面積が増えることによってイノシシや猿の被害が多くなり、防止策の1つとして電気柵の設置をしている。これまでイノシシ1500頭、猿200頭を捕獲した。また、27年度においては10月末までハクビシン52頭、アライグマ31頭を捕獲している。有害鳥獣の捕獲については猟友会の協力を得ているが、後継者となる若い人が少ないため、双葉郡と協力して射撃場設置を考えている。ただし地域住民の同意が必要であり、安全面を考えなくてはならない。捕獲した動物の処分については焼却施設の設置などを考えている。これについては双葉郡と連携しつつ、県や国にもお願いしている・・・。
 市議会を傍聴した後、私は実家近くの「NPO法人チェルノブイリ救援・中部」が設置する放射能測定センター・南相馬(通称・とどけ鳥)に寄った。測定担当者は説明した。
 「イノシシなど野生動物は汚染の高い山菜や土中のミミズ、昆虫などを食べるので強く汚染する。それに筋肉や内臓によって汚染度が違う。セシウムは筋肉部分に多く、内臓部分は比較的少ないです・・・」
 彼に手渡された冊子『放射能とどう向き合うか―住民の被曝低減のために―』を見ると、1年前の1月に南相馬市原町区の山側の片倉地区で捕獲したイノシシの測定が記されてあった。たしかに筋肉が多いバラ肉とモモ肉は1`当たり2000ベクレル以上で基準値100ベクレルの20倍。内臓の腸は低く約1400ベクレルであり、一番低いのは肺で約550ベクレルだった。ちなみに放射線量の高い阿武隈山系で捕獲されたイノシシの中には、なんと20000ベクレルもの線量が計測されている。
 いずれにせよ、原発禍の地におけるビジエ料理はご法度。とくにイノシシは放射能まみれだ。嗚呼! ボタン鍋である・・・。

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