最終的にチェッカーフラッグをものにしたのは「市松模様」だった―。
　模倣疑惑で白紙撤回されてから約８ヵ月。ようやく20年オリ・パラの公式エンブレムが決まった。エンブレム委員会が選んだのは、周知の通りチェック柄の市松模様をデザイン化したものだ。今後4年間、藍色で描かれたエンブレムは日本中を席巻し、どれだけの経済効果を生むのだろうか・・・。
　この3月初旬。南相馬に出向いた際、思わぬところで市松模様の話を聞いた。顔見知りの寺の住職が次のような話をしていた。
　「先日、ようやく庭の除染を終えました。除染前に1�u毎に線量を測り、（毎時）0・3マイクロシーベルト以上だと除染をするということだった。
　ところが、0・3以上の場所もあるし、それ以下の場所所もある。つまり、その通りに除染し、新たに土を入れると庭が市松模様のようになる。まあ、除染作業員の中に元植木職人がいて『住職、これではみっともない』といって、庭全体を除染してくれなりましたけどね・・・」
　エンブレム決定を各紙が朝刊で報じたのは4月26日だった。この日は広島の新井貴浩選手が、プロ野球史上47人目の通算2000安打を達成した。場所はヤクルトの本拠地の神宮球場だったため、私は18年前を思いだした。
　当時の新井選手は東都大学野球リーグに加盟する駒沢大の4年生で、私は懇意にする広島のスカウト・渡辺秀武さん、通称メリーちゃんとよく肩を並べて記者席から新井選手のプレーを凝視していた。メリーちゃんはいった。
　「こないだ新井に会ったら、就職先も決まってないし、プロになりたいといってた。上位指名は無理だけど、新井は広島出身だからね・・・」
　その言葉に私も周りの記者たちも頷いたが、そのときだ。サードを守っていた新井選手はエラーした。
　「まあ、プロでもエラーするしね。しょうがない」
　メリーちゃんの言葉に私たちは再び頷いた。
　 　その年の秋のドラフト会議で新井選手は広島から6位で指名され、翌年にプロ入りを果たした。
　9年前の夏、鬼籍に入ったメリーちゃんは今回の新井選手の快挙に頬を崩しているに違いない・・・。

　先週、久しぶりに明治神宮外苑を散策した。最近の神宮球場は、大会組織委員会から20年オリ・パラ開催の際は前後7か月間ほど、役員やボランティアが待機する場や資材置き場として貸して欲しいと協力を求められている。
　それに対して神宮球場を管理する明治神宮外苑とヤクルは「期間があまりにも長すぎる」といい、大学・高校野球連盟は「学生野球の聖地を物置場にしたいとは・・・」などと抵抗している。ごもっともなことであり、正論だろう。
　ここで明治神宮外苑について少しだけ触れたい。
　1926年、明治天皇・昭憲皇太后の御聖徳を永く後世に伝えるために聖徳記念絵画館を中心に、明治神宮外苑は造営された。その景観を壊さないように神宮球場は建設されている。ホームベースが他の球場とは違って逆方向に設置されているのは、バックネット裏の貴賓席から絵画館を臨めるようにしたためであり、外野席の高さが8・6メートルと低いのもそのためだ。他の球場と同じようにホームベースを設置すれば、貴賓席に座る者は絵画館に尻を向けてしまう。それでは不敬に当たる・・・。
　以上のことを知っただけでも、たとえオリ・パラとはいえ、７ヵ月間も神聖な明治神宮外苑に位置する神宮球場を物置場などにすることは許されない。
　だが、「ちょっと待てよ」と、私は考える。散策すると絵画館の周りは有料駐車場なっているし、足りないときは6面ある草野球場も駐車場になる。それに神宮第2球場で試合がないときは、球場までもがゴルフ練習場になってしまう。ちなみに絵画館の駐車料金は普通車で1日1回1550円、大型バスは1万800円であり、ゴルフ練習場専用駐車場のほうは1時間510円だ。周りに駐車場が少ないという理由も考えられるが・・・。そういえば思いだした。その昔、神宮球場では��神宮の砂�≠熹рﾁていた。
　聖地は商売になるのだろう。よって大会組織委員会の交渉次第では、神宮球場を物置場として借用できるんじゃないの、と思ってしまうのだが・・・。