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vol.692-1(2016年10月20日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―81

 10月6日。サッカーW杯アジア最終予選、ホームで戦う日本代表の対イラク戦をテレビで観た。後半1対1のスコアでアディショナルタイムに入り、かろうじてゴールを決め、日本は勝ち点3をものにした。だが、私は国内の政情不安でホームで戦えないイラク代表チームの健闘に拍手を送った。
 そして、12年前に起こった事件が頭をよぎった。「勝手にイラクに行ったんだから、人質にされた責任は本人にある。自己責任≠ナはないか」という意見がネットを席捲した、あの「イラク日本人人質事件」だ。同時に私は、その事件をモチーフに制作された映画『バッシング』(小林政広監督)を思いだしてしまった・・・。

 故郷・南相馬市を訪ねる場合、私は新幹線のJR福島駅で降り、西口からバスに乗り、川俣町・飯舘村経由で行く。だが、ときにはJR仙台駅まで行き、仙台から南相馬(JR原ノ町駅)までの常磐線は未だに1部不通のために高速バスを利用する。
 私にとって仙台は、思い出深い地だ。小6の日帰りの修学旅行は松島・仙台だった。松島では遊覧船で島巡り、仙台では青葉城を見学。帰りは仙台駅前にあった丸光デパートに寄って土産を買い、争うように仲間とエレベーターとエスカレーターに何度も乗っては遊んだ。
 そして、もうひとつ思い出がある。それは1957(昭和32)年前後、小学2、3年生の頃だった。私は両親に連れられて丸光デパートに行き、初めて「原子力」を見たのだ。模型の原子力は何個もの白と赤の丸い球からできていて、ちょうどオタマジャクシの卵のような形をしていた。その原子力は「マジックハンド」なるもので、壁越しに自分の手のごとく自由に操作していた・・・。
 最近、そのことを思いだして調べると、丸光デパートで見たのは「原子力平和利用博覧会」だったと思われる。『原発とメディア』(上丸洋一、朝日新聞出版刊)によると、読売新聞とアメリカの広報庁が主催した博覧会だった。1954(昭和29)年にビキニ事件が起き、日本の漁船「第五福竜丸」が死の灰を浴びて被曝。原水爆反対の世論を塗り替えるために全国各地で開催された博覧会で、原子炉の模型も展示されたという・・・。
 ともあれ、少年時代に初めて原子力に触れてから半世紀以上の星霜を経た。当然のごとく現在の私は「原発反対!」を訴えているが、原発禍の故郷に出向くたびにさらに心が痛むのだ。

 9月末、仙台経由で南相馬に行くと、こんな声を聞いた。
 5年7ヵ月前の原発事故後、30代のAさんは妻子とともに宮城県に避難。Aさん自身は5年前から平日は南相馬の家から職場に通い、毎週金曜夜に妻子が待つ宮城県に戻る逆単身赴任の生活を送っている。私が直接話を聞いた話ではないが、知人にAさんはいっている。
 ―将来、小学生の2人の娘が結婚するとき、原発事故後もずっと南相馬に住んでいたことを、結婚する相手側の家族が知ったらどう思うか心配なんです。被曝した娘との結婚を許さないこともありえるし、それに娘からは『どうして避難しなかったんだ』と責められるかもしれない。それを思うと娘を南相馬で生活させたくないんですよ・・・。
 以上のAさんのような思いは、原発事故に見舞われたすべての住民が抱いている、と高校時代の友人は語る。とくに子どもを持つ親たちにとっては、計り知れない悩みであり、どうしょうもないジレンマと戦っているだろう。当然、東電と政府への憤りも覚えている。南相馬市在住の知人はいった。
 「この7月12日には原発から20キロ圏内の居住制限区域も解除されたしね。国は『もう放射能は怖くない。早く避難先から戻ってこい』ということ。反対に戻りたくない者は戻らなくてもいいと。つまり、自己責任で対処しろということだね・・・」
 放射能に関しても自己責任≠ネのだが、いかに基準値0・23マイクロシーベルト(毎時)以下に除染したとはいえ、原発事故前の放射線量0・05マイクロシーベルト前後の4倍ではないか。未だ国際的に低線量被曝の長期的影響が不明であることを考えれば、原発禍の街の住民はレントゲン室=放射線管理区域で生活していると同じだろう。
 ちなみに原発禍の街を縦断する常磐自動車道の放射線量計を確認(9月末時点)すると、広野町と南相馬市間の線量は0・1〜3・4マイクロシーベルトだった・・・。

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