《ばいきんあつかいされて、ほうしゃのうだとおもっていつもつらかった。福島の人はいじめられるとおもった・・・》
原発事故から5年8ヵ月が経つ。福島から一家で横浜市に避難して以来、中1になる生徒は転校先でいじめにあっていた。「賠償金があるだろう」と言いがかりをつけられ、これまで100万円を超すお金を奪い取られたという。生徒は自殺まで考えたが、生きると決めた。そう手記にしたためている・・・。
このあまりにも悲しいニュースに私は愕然とし、原発事故当時を思いだし、あらためて「放射能の計り知れない怖さ」を痛感した。
原発事故の被災者は、少なからず信じられない厭な思いを体験している。「マイクロシーベルトちゃん」「放射能くん」などと転校先で呼ばれた児童もいたし、ある女子生徒は「放射能臭がする」とからかわれ、お風呂で身体中が赤く腫れあがるまでタオルで洗った。不登校になった児童も多いと聞いた。
大人も同じような扱いを受けた。福島ナンバーの車でコンビニや飲食店に行けば追い返され、車に石を投げつけられ、高速道路を走れば執拗にクラクションを鳴らされた。都内に住む娘の元に避難した知人は、愛犬を連れての散歩もできなかった。一部住民に「放射能をまき散らすのか!」と怒鳴られたからだ・・・。
以上のようなことは、5年を経ても何処かで起こっているのだ。誰が否定できようか。
復興庁の調べによると、原発禍の故郷を離れて県内・外に避難する被災者数は、7月初旬時点で8万9323人だ。避難したくとも生活のため避難できない人も多い。このことを政府も東電も、もちろん私たちも忘れてはいけない!
私は週に2回ほど地元の図書館に行く。そこで会った住民と会話を交わすこともある。先日は2匹の犬連れの女性と話をした。私が南相馬市出身だというと、こういった。
「そういえば、飼い主が避難したため、棄てられた犬や猫がいっぱいいるんでしょ。4年前に近所の人が犬をいただいてきてね、フクちゃん≠チて名付けたわね・・・」
「福島の福ですか。その犬は、きっとハッピーでしょうね・・・」
そういう私に、彼女は微笑んだ。
私が図書館に出向くのは、福島県の地元紙の福島民報と福島民友の2紙を閲覧するためだ。3・11から2年後の13年4月から福島県は、全国各地に避難する県民のため、避難先の主要自治体の図書館に地元紙を週2回まとめて送っているからだ。
それはともあれ、この11月2日には小池都知事と丸川五輪担当相が福島を訪ねた記事が載っていた。もちろん、両者とも復興五輪≠アピールし、PRするための訪問だが、はたしてどれだけ現実を把握したのかというと疑問だろう。
そして、3日後の11月5日。会津地方の猪苗代町が、20年東京オリ・パラ出場を目指しているガーナと事前キャンプ地の誘致が内定したことを発表した。これはいわき市がオランダと合意したことに続いて2例目だ。正式に締結すれば、出場選手を招いた競技体験や歓迎行事、海外の文化を紹介するパネル展などを予定しているという。
以上のような報道を知れば、福島県は国の命令に従い、復興五輪のために着々と準備を進めている。しかし、決して国も県も、原発禍にある自治体も現実を直視しているとは思えない。
たとえば、除染についてだ。当局は予定通り進んでいると力説する。たしかに放射性物質がたっぷり含まれた汚染土が詰まった、あの山積みされた黒いフレコンバッグを見れば、そう思うこともできる。
だが、ほとんど報じられないが、いかに遮水シートで覆われていても、耐久性が悪いといわれるフレコンバッグは時間が経つにつれて破れ、雨が降れば汚染水が流れ出ている。何度もいうが除染は、単なる移染≠ナあり、目に見えない放射能は消えることはない。
まだまだ当局は「復興五輪」の惹句を口にすることはできないはずだ。 |