スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.687-1(2016年9月15日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−38
  「感動」こそを伝えよう

 障害者の挑戦をメーンに据えたテレビ番組。一方、別の番組が「感動の押しつけ」をパロディーにしたのをきっかけとして、障害者スポーツをいかに伝えるべきかという点にあらためて注目が集まった。ちょうどリオデジャネイロパラリンピックも開かれている。その現状はどうなのか。どこに課題があるのか。
 これまで、メディアがパラリンピックをはじめとする障害者スポーツをどう取り上げてきたかといえば、そこに偏りやパターン化があったのは否めない。極端な言い方をすれば、「障害があるのに、けなげに頑張っている」という単純な美談に仕立て上げてばかりいたのだ。いまもテレビのバラエティ番組などではそうしたワンパターンを見受けることがある。それでは、「感動ポルノ」などという厳しい指摘を受けるのも仕方がない。
 ただ、近ごろは、そうした型にはまったやり方ではなく、さまざまな角度、多彩な視点から障害者スポーツをとらえるようになってきてはいる。それに、「障害を乗り越えて頑張っているという感動物語ではなく、競技や試合そのものをもっと取り上げよ」との指摘にも賛同はできない。障害者アスリートをめぐる「感動」を「押しつけ」「健常者のために障害を消費している」などと頭から否定する論もあるが、そもそも、ハンディや制約を乗り越えて競技に精いっぱい取り組む情熱、姿勢こそが障害者スポーツの何よりの魅力ではないのか。
 リオのパラリンピックを見ていてもわかるように、障害者の競技は、一般のトップレベルのそれのように、誰もがひと目で面白い、すごいと感じられるものばかりではない。いろいろとハンディがある分、プレーやパフォーマンスにも制約がある。それをメディアが一般のスポーツと同様に扱ったらどうなるだろうか。「迫力に乏しい」「スピードがない」などとして、その面白さがわからないままになってしまう場合も少なくないのではないか。
 どのようにして運動能力を高めてきたのか。ハンディをどうやってカバーしてきたか。いかにしてあれだけの競技力を身につけたのか。車いすや義足などの器具を使いこなすために、いったいどれほどの努力を必要としたか。大きな困難を乗り越えずにはおかない情熱はどこからわいてくるのか――。そうしたことがわかって、初めて真のすごさ、本当の面白さが見えてくる。アスリートたちの偉大さがわかる。多くの障害者スポーツとはそういうものなのだ。だからこそ、メディアは「いかにして障害を乗り越えたか」「競技力を高めるためにどれほど頑張ってきたか」をちゃんと伝えなければならないのである。
 ハンディや制約がある分、障害者アスリートは多くのことをより鮮烈に表現できるともいえる。ひたすら努力することの尊さ。考え、工夫することの大切さ。ひとつの道にすべてをそそぐ情熱の熱さ。健常者の選手も障害者の選手もアスリートとしては同じだが、競技に対する思いは障害者選手の方がより純粋だと言えるかもしれない。そしてその純粋さからは、まさしく障害者スポーツにしかない感動が生まれてくる。それが何よりの魅力だ。そうした感動を伝えずして、いったい何を伝えるというのか。
 とかく障害者スポーツやパラリンピック、またその報道などをめぐる批判や指摘には建前が多い。「困難を乗り越えた苦労話などではなく、競技そのものの内容を伝えるべきだ」「パラリンピックをオリンピックと同様に扱わないのはおかしい」「パラリンピックをオリンピックと統合すべき」などといった具合だ。これまで述べてきたように、それらは本質を見ない建前論にすぎない。オリンピックとパラリンピックの統合も、将来はともかく、いまはまだその時期ではないと思う。「ポリティカリー・コレクト」を主張したいがための建前論などからは何も生まれない。
 終わったばかりのオリンピックは、人間たちの持つ天分には限りがないことをうたいあげた。あとを受けたパラリンピックは、人間たちの努力にも限りがないことを教えてくれている。どちらも素晴らしい。どちらも見る者をひきつけてやまない。ただ、いまのオリンピックであれば、純粋な感動はパラリンピックの方にちょっと多いかもしれないと思わないでもない。

筆者プロフィール
佐藤氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
ページトップへ
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件