スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.722-1(2017年7月27日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−60
 2大会同時決定の幻滅

 2024年と28年の夏季大会開催地が同時に決定されることとなった。異例の決定である。これはある意味で、現在のオリンピックのあり方、またそれを推進してきたIOCの敗北とも言わねばならない。
 9月のIOCリマ総会で両大会の開催都市が決まる。24年大会に立候補しているのはパリとロサンゼルスだけで、それを早く2つの大会に振り分けてしまおうというわけだ。いまのところ、24年にパリ、28年にロサンゼルスとなる見通しという。両都市もそのやり方を受け入れることになるらしい。
 IOCはこれを妙案と思っているようだ。とんでもない。もともとは、立候補都市が次々と消えて、なんとか二つ残ったのを幸いに、それを無理やり振り分けただけではないか。開催を望む都市が相次いで撤退していった状況は何も変わっていないではないか。その責任をIOCはきちんと受け止めているのか。
 24年大会にはボストン、ハンブルク、ローマ、ブダペストなどの有力都市が立候補の意向を示していたが、次々に撤退した。それぞれの市民、国民の理解が得られなかったためである。膨れ上がる一方の開催経費を市民が受け入れなかったのは当然と言わねばならない。冬季大会も同じなのは、2022年大会への立候補が北京とアルマトイのみになってしまった例が如実に示している。夏冬ともに世界各地でオリンピック離れが進んでいるのは、どうにも否定できない状況なのだ。
 言うまでもないことだが、世界のさまざまな地域、さまざまな街で開かれるべきなのがオリンピックというものだろう。近年は、規模や経費の膨張により、有数の大都市でしか開かれないようになっているが、4年に一度、世界がひとつになる貴重な機会ということを考えれば、本来は多様多彩な場所で、たとえば中都市でも、あるいは、いわゆる経済大国でなくても開けるようにしていくべきなのである。それでこその友好親善の祭典、平和の祭典ではないか。
 なのに現実はそうはなってこなかった。それどころか、ごく限られた国の大都市でなければ開催地に選ばれないという状況が強まるばかりだった。それが、今度は際限ない経費膨張のために有力都市のオリンピック離れが始まると、あっさりと異例の2大会同時決定に踏み切るありさまだ。正式に決まれば、ともに3回目のオリンピック開催。パリもロサンゼルスもそれなりの大会を開く力があるのは間違いないが、これではオリンピック運動をより幅広く広げていくことにはつながらない。7年に一度、開催地を決めるようにしているのは、そのつど多くの開催候補地を募るためではないか。なのに、立候補辞退が相次いだことにあわてふためいて、二大会同時決定に走ってしまっては、自ら責任を放棄しているようなものだ。オリンピック離れに危機感を抱くのはわかるが、このご都合主義ではIOCが大事な責務をきちんと果たしているとは言いがたい。
 相次ぐオリンピック離れは、IOCが根本的な問題に真正面から向き合っていないことを示している。「アジェンダ2020」を出して経費削減などへと舵を切ってはいるが、ビジネス優先の方針によって巨大、豪華な大会を維持していこうという姿勢は変わっていない。それでは、今後も立候補都市の確保に四苦八苦することになるだろう。
 確かにオリンピックは夏冬とも空前の発展を見せてきたが、すべての面で拡大していく路線はついに行き詰ったのである。となれば、IOCは先頭に立って、オリンピックのあり方を根底から変えていかねばならない。まずは経費や規模の拡大を抑え、簡素でカネのかからない大会を主導して、さまざまな地域の中都市でも開けるようなモデルを示していく必要がある。豪華絢爛な大会でなければ、オリンピックの商品価値が大幅に下がるというものではないはずだ。「いろいろな街で開催可能な大会」へと方向を変えることができれば、本来の精神にふさわしいものとなり、かつ立候補都市の減少も食い止められる。IOCは思い切った決断をしなければならない。
 2022年冬季大会では、夏季大会を開いたばかりで、しかも冬季競技のイメージに乏しい北京が開催地となり、今度はまた、夏季2大会が、既に3度目開催の大都市に振り分けられることになる状況は、オリンピックの持つわくわく感に乏しい。むしろ幻滅を招きかねない。オリンピックという言葉の持つ輝きが、しだいに失せていく。そう感じているファンは少なくないと思う。

筆者プロフィール
佐藤氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
ページトップへ
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件