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vol.730-1(2017年10月5日発行)

佐藤次郎 /スポーツライター

「五輪の風景」−65
 負の連鎖をきっぱり断ち切れ

   平昌オリンピックが間近に迫ってきて、IOCをはじめとする国際スポーツ界はまたしても難問を目の前に突きつけられることになった。ロシアのドーピング問題だ。全面除外を求める声もある中で、ロシア選手の参加についてどう判断するのか。スポーツの、またオリンピック大会の本質的な価値にかかわることだけに、この問題に相対するには相当の覚悟が必要となる。
 ドーピング違反は相変わらず後を絶たない。もちろんロシアだけのことではない。ただ、ロシアをめぐる問題がそれだけ深刻なのは、言うまでもなく国の機関が直接かかわっていたとされているからだ。ドーピングという行為が競技の魅力や素晴らしさをゼロにしてしまうのは、いまさら繰り返すまでもないことだが、それをある意味で国ぐるみ、組織ぐるみでやっているとなれば、もはや競技会など成り立たない。スポーツを支えている多くのファンが、そんなものには見向きもしなくなるのである。もし、そうしたことが頻発するようであれば、オリンピックの商業的価値などあっという間に地に落ちるだろう。
 この問題に対して、リオ大会におけるIOCとIPCの対応は対照的だった。IOCは潔白な競技者の人権に配慮するとして、各国際競技団体にロシア選手の出場の判断を委ね、結果としてリオオリンピックには多くのロシア選手が出場することとなった。一方、IPCは、スポーツの信頼性を確保するためとして、リオパラリンピックへのロシア選手の出場を認めなかった。これを受けて、IOCの対応には批判が相次ぎ、IPCの毅然とした姿勢に称賛が集まったのは理解できる。IPCが絶対的に正しかったと言えるかどうかはわからないが、IOCの対応には少なからず政治的な判断が含まれていたように思えるからだ。
 有数の大国であり、また屈指のスポーツ大国であるロシア。それが全面的にオリンピックの舞台から排除されれば、さまざまな面で大きな痛手となり、また各方面からの反発も避けられない。IOCはそうした点もかなり考慮したように見受けられる。苦慮の末の対応が妥当だったかどうかはともかく、その判断がいささか政治的だったというのは、多くの関係者やファンが感じたところではないか。一方、IPCは、この問題がスポーツそのもの、競技そのものに及ぼす影響を第一に考えた。スポーツを破壊する行為に真正面から対峙したのである。その違いが、スポーツや競技の価値を第一義と考える人々の称賛と批判とを分けたのだろう。
 さて、平昌大会だ。オリンピックについてもパラリンピックについても、間もなくロシア選手出場に関する対応が求められることになる。その判断は、不正を生んだ状況がきちんと是正されたか、ロシアの反ドーピング機関が国際規定にのっとって運営されるようになったのか――などを見きわめて下されるが、その見きわめが甘かったり判断の基準が曖昧だったりすれば、オリンピックや国際スポーツ界にそそがれる視線はさらに冷たいものとなるだろう。政治的な臭いを感じさせるような決定であれば、またしても批判が巻き起こるに違いない。いずれにしろ、疑いをさしはさむ余地のない、明確な事実の見きわめによる決定こそが求められる。曖昧さが残ったり、政治判断を感じさせたりといった中途半端な対応を繰り返していれば、そのたびに競技の、オリンピックの価値が加速度的に下がっていくことになるからだ。負の連鎖はできる限り早く断ち切らねばならない。
 そのためにまず必要なのは、ロシア自身がこの大がかりなドーピング問題を率直に省みる姿勢を示すことだろう。この問題については、世界反ドーピング機関(WADA)の独立調査官の「マクラーレン報告」によって詳細かつ具体的な調査結果が明らかになっており、その内容からして大がかりな組織的不正が長く行われていたことは動かしがたい。問題を根本的な解決に向かわせるためには、まずもってロシア側がこの報告内容を受け入れ、ありのままを率直に認めることが不可欠だ。そのうえで抜本的な是正策を示せば説得力も生まれる。そうでなければ、いつまでたってもロシア選手に疑惑の目が向けられることになりかねない。過去の過ちをきちんと認めたうえで新生の方向を示せば、ロシアスポーツ界への評価も上がるのではないか。
 オリンピックのたびに疑惑が再浮上したり、割り切れない思いが生まれるのではやりきれない。一刻も早く、誰もが納得できる明快な形でこの問題に終止符を打たねばならない。IOC、各競技連盟、そしてロシア自身。スポーツ、そしてオリンピックを守るために、それぞれが覚悟を示さねばならない時だ。

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