バックナンバー:vol.34 「肖像権を返して!! 私プロなんです」 
(杉山 茂/スポーツプロデューサー)  
 
 金メダリスト・高橋尚子選手が 「プロへの道」 を走っている。

 日本で陸上競技のプロというと、レースなどで生計をたてるわけではなく、自分の肖像権を自由に広告などに使えることが、いちばん大きなポイントだ。

 シドニー以後の彼女の人気は、プロ・スポーツのトップクラスが顔負けする勢い。当然、広告などの “商業活動” から誘いの手がのびるが、日本陸上競技連盟への登録がいまのままだと、制限をうけたうえ、肖像権も日本オリンピック委員会の管理になる。

 プロ登録を届出て、JOCへ申請、認められれば “CM解禁” だ。彼女の好感度なら、大きな収入も期待でき、ハッピーな話だが、JOCにとっては、“人気モデル” を失うことになり、頭が痛い。オリンピック選手などのトップクラスを広告に起用するためには、JOCに4年間2億円の協賛金という名のスポンサー料が要る。

 抜群の知名度を持つ爽やかな選手がたくさん揃えば、JOCの収入は増え、財源がうるおう仕組みで、モデルとなったメダリストには肖像の使用料500万円が支払われるだけだ。

 高橋選手のようにプロへ走ってしまえば、JOCの収入は減り、強化資金に響いてくる。

 プロ宣言したあとも、なんとかJOCのモデルとして協力して欲しいと願うことになる。プロ以外のスポーツ選手によるテレビ・コマーシャルなどは、一時ほどの評価がなくなっていると云われていただけに、高橋選手の転向は、いっそう痛い。

 肖像権を返して、とプロ宣言する選手は、これからも、次々に現れそうなだけに、この “商法” そのものも、考えなおす必要がありそうだ。

 話はちょっと変わるが、ラグビーの日本選手権(2月25日)で神戸製鋼と優勝を分けあったサントリーは、その翌日スポーツ紙などに 「優勝。ご声援ありがとうございました」 のメッセージを載せた大きな広告を掲げていた。

 5年前、初優勝した直後、同社の広報・宣伝関係者が 「せっかくのチャンスなのにアマチュア規程とやらにしばられて身動きできない」 とうらめしげに話していたことを思い出す。

 スポーツとコマーシャリズムを結ぶ流れは速く、急である。肖像権を取り戻すだけのプロなんて、いずれ無くなることだろう。

                                                 (2001年2月28日号)
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