バックナンバー:vol.76「全米No.1を決める悩み」(2001.12.12)
 (賀茂美則/スポーツライター/ルイジアナ発)
 12月8日、わがルイジアナ州立大学(LSU)のフットボール・チームがテネシー大学を31対20で破る番狂わせがあった。大学フットボールのレギュラー・シーズンがほとんど終了した中で、テロの影響で延期されたこの南東部リーグ(SEC)優勝決定戦はアメリカ中のスポーツ・ファンの注目を集めていた。なぜなら、LSUの勝利を望むファンが全米におり、さらにはLSUの勝利は大論争を生むことが確実だったからである。

 スポーツに勝ち負けがつきものである以上、どんなスポーツであれ、全国No1を決めたいのが人情である。高校野球や少年草サッカー大会など、日本でも全国一を決める大会は数多い。アメリカの大学スポーツも、カレッジ・ワールドシリーズ(野球)、ファイナル4(バスケットボール)などがあるが、フットボールはこれまで全米チャンピオンを決定する試合がなかった。3年前に始まったボウル・チャンピオンシップ・シリーズ(BCS)はその試みだったのだが、LSUの勝利のせいでもろくも崩れさる可能性が出てきた。どういうことだろうか。

 大学フットボールのシーズンが始まると、毎週のようにランキングが発表される。
古くからあるAP通信のランクは、全国のスポーツ担当新聞記者の投票で決まり、後発のESPN/USA Today(E/U)のランクは、コーチ同士の投票で決まる。2つのランキングは毎週発表され、シーズン終了後の投票で全米チャンピオンが決定される。

 このシステムには問題が多い。まず、2つのランキングが違ったチャンピオンを選ぶことがままある。また、投票で選ぶため、2位や3位になったチームやそのファンも不満を覚えることも多い。

 野球やバスケットボールのようにプレーオフをやればいいという意見もあるが、週に1試合しかできないフットボールで例えば8チームによる決定戦を行っても3週間はかかる。さらに、大きなビジネスであるボウル・ゲームの重要性が失われるので、産業界からの抵抗も大きい。

 さて、大学フットボールはボウル・ゲームと呼ばれる招待試合でそのシーズンを終える。スポンサーの名前を冠したボウル・ゲームは今年は25を数え、全米から50チームが招待される。各地のファンがその会場にかけつけ、ホテルは賑わい、一大パーティとなる。入場料、テレビ放映料などの収入から得た各大学への分配金は後述の4大ボウルでは15億円ずつにも達する大イベントである。

 日本でも有名なローズ・ボウルはカリフォルニア州パサデナ市で行われるが、1997年のシーズンまでは西海岸のリーグ、PAC10と中西部のリーグ、BIG TENのチャンピオン同士が争うことになっていた。その他にも数多くあるリーグのチャンピオンはいろんなボウル・ゲームに招待されており、1位と2位が直接対決するのは稀であった。

 ボウル・ゲームを全米チャンピオンの決定戦にしてしまえばいいというのは当然の発想であり、これを目論んだのがBCSである。

 1998年のシーズンから採用されたこのシステムによれば、4大ボウル(ローズ、オレンジ、シュガー、フィエスタ)が4年毎の持ち回りでシーズン終了後の1位チームと2位チームを招待し、その勝者を全米チャンピオンとする。

 これまで3年間は比較的平穏にすんでいた。今年の優勝決定戦(ローズ・ボウル)はマイアミ大対ネブラスカ大と決まったのだが、この決定が大きな論争を呼んでいるのだ。

 BCSは1位と2位チームを決めるのに、AP通信、E/Uのランク、8種類のコンピュータによるランキング、負け数、対戦相手の成績などを加味した複雑なシステムを採用している。12月8日の試合の前は、マイアミ大とテネシー大が1、2位を占め、文句を唱えるファンはいなかった。

 だが、テネシー大の後をネブラスカ大、コロラド大、オレゴン大が僅差で追っていたので、LSUを応援するファンが多かったのだ。また、BCSに反対し、プレーオフ制を主張する人々も、論争を呼ぶことになるLSUの勝利を望んでいた。

 LSUの勝利の結果、全国で唯一全勝のマイアミ大は2.62点で文句なしの1位(点数は低い方が良い)だったが、それに続くネブラスカ大(1敗)は7.23点、コロラド大(2敗)が7.28点、オレゴン大(1敗)が8.67点という僅差であった。

 怒っているのはコロラド大とその関係者である。というのもネブラスカ大に63対36という大差で勝っており、ネブラスカ大と共に所属するBIG12のチャンピオンなのに、なぜ優勝決定戦に出られないのか、という理由である。その理由の一つはコロラド大が2敗していることである。

 オレゴン大にも言い分がある。強豪揃いのPAC10のチャンピオンで1敗しかしていないのだから、リーグ優勝していないネブラスカ大、2敗のコロラド大よりも全米優勝決定戦に相応しい、という理屈である。実際、AP、E/Uのランキングでは共に3位のコロラド大、4位のネブラスカ大を上回り、2位につけているのだ。 

 ネブラスカ大にしても、コロラド大には負けたものの、あとの試合は全て10点差以上の圧勝であった。決定戦に相応しくないとは言い切れないのである。

 ローズボウルでマイアミ大が勝てば、文句なしの全米No1である。問題はネブラスカ大が勝った場合である。BCSの結果がそのまま反映することになっているE/Uではネブラスカ大が1位となるが、APのランキングではフィエスタ・ボウルで対決するオレゴン大とコロラド大の勝者が1位になることが予想され、チャンピオンが2チームとなる可能性が大きいのだ。

 全米統一チャンピオンを生み出そうとして考案されたBCSだが、LSUの勝利のせいで、強烈な批判にさらされている。ボウル・ゲームの結果がどうであれ、プレイオフ待望論が再び起こってくるのは必至である。

 南部と中西部では特に、大学フットボールはアメリカ文化の一部とまで言えるほどに大きな存在である。地元チームを応援する熱狂的なファンは数多く、例えて言えば、阪神タイガースとそのファンが全米に50近くあるようなものだ。

 全米チャンピオンはおいそれと簡単に決められるものではないのである。

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