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(C)photo kishimoto


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vol.276-1(2005年11月 9日発行)
賀茂 美則/スポーツライター
  (ルイジアナ発) 

災害時にこそ、スポーツ

岡崎 満義/ジャーナリスト
   〜ベンチの中の「26」と「3」〜
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災害時にこそ、スポーツ
賀茂 美則/スポーツラーター/ルイジアナ発)

 10月30日の日曜日、ルイジアナ州バトンルージュで行われたNFLの試合、マイアミ・ドルフィンズ対ニューオーリンズ・セインツは二つの意味で注目を集めた試合であった。2勝4敗のチームと2勝5敗のチームであるから、残念ながらペナント争いとは全く関係がない。

 まず一つ目の注目点は、去年までのルイジアナ州立大学の監督で、わずか1年半前には大学フットボールで全国制覇をなしとげ、今年から名門プロチーム、ドルフィンズの監督に就任したニック・セイバンの凱旋試合であったことである。

 二つ目は、8月29日にハリケーン・カトリーナがニューオーリンズの東に上陸してから、セインツが地元ルイジアナ州で戦った初めての試合だということだ。さらには試合に先立つ月曜日に、フロリダ州にハリケーン・ウィルマが上陸し、マイアミ地区にも甚大な被害を与えたので、この試合は、ハリケーンの被災地区同士の戦いという様相を呈したのである。

 セインツはハリケーン・カトリーナ以降、4試合目のホームゲームであったが、これまでは対戦相手の本拠地、ニューヨークで1試合、仮の本拠地として定めたテキサス州のサンアントニオで2試合を戦った。4試合目も本拠地のニューオーリンズではなく、100km以上離れたバトンルージュのルイジアナ州立大学のスタジアムで行ったのである。つまり、36年ぶりにバトンルージュの大学スタジアムで主催されたプロフットボールの試合の相手が、たまたま去年までこの大学の監督をしていたニック・セイバン率いるドルフィンズだったという訳である。

 筆者はニック・セイバンをそれほど良く知る訳ではないが、筆者の次男はたまたまセイバン監督の娘と同級生であったので、チームに同行したセイバン家の面々と旧交を暖めたようだ。セイバン一家もハリケーンの影響でバトンルージュ入りが1日遅れ、マイアミに戻っても停電が続いており、海岸沿いの家の被害も甚大なので、試合の後はジョージア州の別荘に避難し、学校も2週間は休むことになると話していた。

 スタジアムの方は、去年までの地元の英雄、ニック・セイバンの凱旋試合ということもあり、最大収容人数に迫る6万人の観客で膨れ上がった。セイバン監督がドルフィンズを率いて登場すると、歓声に混じってブーイングも聞こえたが、これは敵の入場にはつきものである。試合は、ドルフィンズがオフェンスでミスを連発したセインツを21対6と圧倒して3勝目を挙げた。

 広く知られている通り、ニューオーリンズ・セインツの本拠地であるスーパードームはハリケーン・カトリーナの上陸前後にシェルターとなり、そこに避難した住民の惨状は大きなニュースとなった。ハリケーンの上陸後、付近は水没し、屋根の表面もほぼ全面に渡って吹き飛ばされ、フットボールの試合が出来るのは早くても来シーズン、場合によっては2007年のシーズンになると言われている。オーナーのベンソン氏はこれまでも、観客動員数の芳しくないニューオーリンズからの移転をほのめかしていたが、今回のハリケーン襲来にあたっては、メキシコ国境に近い、テキサス州のサンアントニオ市に一時的な本拠地を定め、サンアントニオもしくはNFLチームのないロサンゼルスに恒久的に移転するのでは、との観測が支配的であった。

 しかしながら、ニューオーリンズ再建が軌道に乗るようになると、同じくオクラホマ・シティーへの移転話があったNBAのニューオーリンズ・ホーネットと共に、反対論が強くなってきた。というのは、ニューオーリンズの復興にはプロスポーツチームの存在が欠かせない、という認識が高まってきたからだ。試合当日には、NFLのコミッショナー、ポール・タグリアーブ氏が、「セインツの移転問題はリーグ全体の問題であり、NFLとしてはルイジアナ州に残ってもらいたい」とベンソン氏の独走に釘をさし、当のベンソン氏も「当面、ニューオーリンズからの移転は考えていない」という新聞広告を出す羽目に至った。

 スポーツが災害時に果たす役割については、日本でも似たような展開があったことを思い出される読者も多いことだろう。阪神大震災の後には、当時イチローが在籍していたオリックス・ブルーウェーブが「がんばろうKOBE」を合言葉にし、中越地震の折には、Jリーグのアルビレックス新潟が「ジーコジャパンドリームチーム」とチャリティ試合を行い、新潟の被災者を盛り上げた。

 ここ、ルイジアナでも、ハリケーン・カトリーナの約1ヶ月後に上陸したハリケーン・リタの影響で、ルイジアナ州立大とテネシー大の大一番が危うく中止になりかけたことがあった。この時は、通常土曜日に行う試合を月曜日に延期し、さらにルイジアナ州立大は「ハリケーンのクリーンアップデイ」と称して月曜日を休校にしてしまった。「フットボールの試合を授業に優先させるとは何事か」という批判もあったが、州全体が盛り上がる大学フットボールの試合は、ハリケーンの相次ぐ来襲で志気を喪失したルイジアナの人々にとって、何よりのカンフル剤となった。もっとも、このテネシー大相手の敗戦がなければ、今年のルイジアナ州立大は2年振りの全米チャンピオンを狙える位置にいたというのは皮肉ではあるが。

 スポーツには、観客を楽しませるだけではなく、力を与え、勇気づける力がある。2、3時間娯楽を提供するだけではなく、観客の「戦意」を高め、さらには、同じ境遇の人たちに格好の話題を提供することができる。

 地震や台風・ハリケーンなどの災害時にこそ、スポーツは最大の力を発揮すると言えるのかも知れない。


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