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vol.276-1(2005年 11月 9日発行)
岡崎 満義/ジャーナリスト

ベンチの中の「26」と「3」

賀茂 美則/スポーツライター・ルイジアナ発
   〜災害時にこそ、スポーツ〜
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ベンチの中の「26」と「3」
岡崎 満義/ジャーナリスト)

 ロッテ・マリーンズの快進撃には驚いた。パ・リーグのペナントレースは2位だったが、プレーオフ、日本シリーズはあれよあれよという間に勝ち進み、31年ぶりの頂点に昇りつめた。

 バレンタイン監督の力が大きかった。「ボビー・マジック」と称される名采配で、正力松太郎賞も受賞した。今江、西岡など若手、堀、渡辺俊などベテランの力がみごとにバランスがとれて、短期決戦をいっきに押し切ったように見える。アメリカでも、その力量を評価する声が大きくなっているようだ。

 バレンタイン監督は、今期、120通り以上の打順を試みていたそうだ。昔なら猫の目打線と嘲笑されるところだが、スポーツは結果よければすべてよし、で、これも名采配とたたえられた。阪神の岡田監督が、赤星、鳥谷、シーツ、金本、今岡・・・と並ぶ不動のオーダーで対戦、なすところなく、4タテを食ってしまった采配とまことに対照的だった。

 といって、これはバレンタイン方式と岡田方式のどちらがすぐれているか、という問題ではない。長い長いペナントレースと短期決戦とは、勝敗はまったく別物、ということだろう。今回は、16日間も実践から離れた阪神が、勢いをとりもどせないまま、ズルズルと負けてしまった、ということだろう。

 私にとって印象深かったことは、日本一になったことよりも、ロッテ・ベンチの中に背番号26のユニフォームが懸けられていたことである。ベンチ入りできる選手は25人、背番号26のあらわすものは、26番目の選手として、ファンの象徴的背番号をつくったものだということである。ベンチの中には、ファン代表がいつでも1人、“戦力”として入っている、ということだ。ファンの力も、選手の力をあと押しする大切な力だ、ということを、背番号26のユニフォームがあらわしている。小さな、何気ないことのように見えて、この背番号のベンチ入りを発想したアイデアマンは素晴らしい。それにも増して、そのことに同意したバレンタイン監督のセンスも、まことに若々しく素晴らしいものだった。

 「背番号26」がベンチの壁にかかっている映像を見て、すぐ思い出したのは、アテネ五輪の日本代表プロ野球チームのベンチに、ナショナルフラッグにサインされた「3」の数字である。

 長嶋茂雄さんが代表チームの監督に決定していたのが、五輪の5ヵ月前、脳梗塞で倒れて実戦采配がふるえなくなった。中畑代行のベンチワークとなったとき、長嶋さんを忘れず、長嶋さんのために全力をあげて戦い、金メダルをとろう、という意味で、「3」のサインの入った国旗がベンチに懸けられた。結果は予想外の銅メダル。ひょっとすると、「3」のプレッシャーだったかもしれない。

 脳梗塞で右半身の麻痺が残る長嶋さんの書いた「3」は、弱々しく、というより痛々しく震えていた。

 同じ背番号の数字でも、ベクトルの方向が違う。「26」はとにかく前向き、連日スタンドで熱烈な応援をしているファンの象徴として、"26番目の選手"をベンチに迎え入れることを意味している。

 アテネの「3」は、長嶋監督を失った後の、ポッカリあいた穴を埋めるための数字「3」である。いわば、後向きの数字、といえる。ふるえる手で、いや痛々しいばかりの「3」に、代表選手たちはいっそう金メダルへの重荷を背に負うことになったかもしれない。

 数字の魔術性を感じさせる「26」と「3」であった。


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