一時は関東大学リーグの3部といわれる東京都リーグでの試合を余儀なくされていた早稲田大学サッカー部(正式名称はア式蹴球部)だったが、今年の春に2部リーグに昇格して前期優勝。その勢いで7月の総理大臣杯では強豪チームを撃破し、準優勝の快挙を演じた。
そして、この9月からの2部秋季リーグ戦にも優勝。9年ぶりの関東大学1部リーグ昇格を決めた。“名門復活”である。 その1部リーグ復帰への原動力は、ひと言でお金。3年ほど前から豊富な資金力にものをいわせ、チーム強化に躍起となっていたからだ。 その資金力。現在、早稲田大学サッカー部は、約650名のOB会員と現役部員から年間1万円の会費を徴収し、ここで集まるのが年間約700万円。その他、早慶サッカー定期戦での収入が年間約450万円、大学側から強化費として年間600万円が支給される。これだけで年間約1750万円が部活動の運営費に当てられていることになる。
まだある。さらに4年前から5年計画で「強化基金のご協力を!」という趣旨で目標達成額を3000万円に設定。現時点で約2500万円を集め、予定通り来年中には目標額を突破する計算だという。 また、2年前に早稲田大学は、企業スポンサーを募り、地域密着型の総合スポーツクラブを目指してNPO法人のワセダクラブを発足。サッカー部は、東伏見のグラウンドがある西東京市を中心とした少年少女を集めたサッカー教室を積極的に行い、その業務委託料も部費にくみこまれている。 「正直、大学チームといっても本当に強化するには、まずはお金です。たとえば、優秀な選手を獲得してもいい指導者がいなければ強化することはできない。企業を退職したOBを監督に迎えても強化はできないし、選手がついていかない。そこで日本サッカー協会認定のS級の資格を持つ優秀な指導者を迎えるためには、年俸1000万円を提示しなければならない。当然、チームを強化して結果を出さなければ契約事項に従い、指導者をクビにすることもあります・・・」 早稲田大学サッカー部OBは、そう私に説明した。現在、監督に就いているのは、元日本代表選手で清水エスパルスに所属していたOBである大榎克己だが、年俸1000万円を提示して招聘したという。その半額の500万円は清水エスパルスが負担しているといわれている。 もちろん、資金力に恵まれていても優秀な高校生選手をスカウトしなければチームは強化できない。 2007年、創立125周年に向けグローバル・ユニバーシティを目指す――。そう謳っている最近の早稲田大学は、3年前の創立120周年を機に人間科学部から、スポーツ文化学科とスポーツ医科学科を擁するスポーツ科学部を独立させて新設した。このことが数年前から低迷している“早稲田スポーツ復活”の布石となっているのだ。 以前から早稲田大学は、人間科学部に限らず、その他の学部でも決められた学力をクリアしている入学希望者であれば自己推薦で受験し、入学できる道が開かれていた。2学科で定員400名を募るスポーツ科学部は、一般試験での入学もできる一方、定員の2割に当たる約80名をスポーツ推薦枠で入学させている。全国大会、それに匹敵する競技大会でベスト8入り、さらに5段階評価で3・5以上の学力を持つ者にしか推薦入学の資格は与えられないという。今年の場合、37競技に75人がスポーツ推薦枠でもって入学を果たしている。 そんなスポーツ科学部の新設によって、早稲田大学サッカー部は、一気に強化されたのだ。3年前から一学年4名の推薦枠をフル活用。全国各地にいるOBから情報を集め、10年前に発足した活性化委員会の強化委員がスカウティングリストを作成。優秀な選手の獲得に動いたのだ。 「最近はプロのJリーグに入っても平均選手寿命が5、6年といわれるように高校生選手たちは大学に目を向けてくれる。OB会が組織化していれば、卒業の際はOBのサポートで就職先を探すこともできる。それに大学で活躍すれば、日本サッカー協会の強化指定選手になれる。強化指定選手として海外遠征に行く場合、早稲田大学は強化計画費の名目で1人当たり年間50万円を援助しますから・・・」 前出のOBは、そう真顔でいった。これからは、たとえアマチュアの大学チームでも豊富な資金力、運営費がなければ優秀な選手を獲得することはできない。常にチームを強化しなければ生き残れない、と力説した。 |