世界体操選手権男子個人総合で冨田洋之が日本人選手として31年ぶりの優勝、水鳥寿思(2位)との「ワン・ツウフィニッシュ」は35年ぶりと聞けば、直後の種目別で続々と優勝の朗報が、と期待されたのだが、鹿島丈博のあん馬3位が目立っただけで終った(11月26、27日メルボルン)。 背景に、個人戦への世界の戦いかたの“変化”がある。 各種目に最高レベルを備えたオールラウンダーによる「総合王者至上」から、各国は徐々に種目別重視、スペシャリストの強化に争いの焦点を移しはじめているのだ。 といって、冨田の栄光、水鳥の活躍が割り引かれるものではない。 「個人総合」という最高、最強のタイトルは体操ニッポンが、つねに追い、歩みつづけた王道の頂点であり、世界からの敬意を集める栄冠である。 だが、「孤高」を守りつづけ、伝統にこだわりつづけるのは、やがて岐路に立たされることになりはしないか。 あらゆるスポーツは高度化のテンポが速く、オールラウンダーを望み得なくなっている。 かつて、アルペンスキーは、多くの競技者たちが「3冠王」の輝きを求めて心身をすりへらした。やがて種目別専門化が“常識”となり、それぞれのイベントが人気を集めはじめる。 個人競技が相次いで転戦制のポイント方式を採用したのは、事業性、興行性の拡充ばかりが理由ではない。スペシャリストたちによる競争の魅力が、現代にマッチしているからである。 体操は、旧採点法に疑問符がつけられ(アテネ・オリンピック)、難度を反映させる新採点法が導入されたことで、ますますオールラウンダーへの道が厳しくなる、とは専門家たちの一致したみかただった。 そのなかで敢然と“伝統の総合”に挑む日本の姿勢は、今回の快挙の復活で、揺るぎないものとなるだろうが、新しい波の動きにも、充分、関心を払うべきだ。 総合優勝と2位の成果だけで、種目別のメダル量産にはつながらないのである。 この傾向は強まりこそすれ弱まりはしないだろう。 「冨田の素晴らしい演技が、オールラウンダーの魅力を再評価させた」との声もある。 「ワン・ツウフィニッシュ」の国際的な反応をしばらく見つめていたい―。 |