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vol.499-1(2010年8月3日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

「特待生問題」から3年経って

 夏の全国高校野球選手権が7日に幕を開ける。甲子園出場を決めた49代表を見ると、やはり実力校が出そろったという感じだが、むしろ注目すべきは地方大会の終盤にあった、と私は思う。今年の3年生は特待生の問題がクローズアップされた2007年当時、中学3年生だった生徒たちであり、今夏の地方大会ではあの問題の影響がじわりと出ていたような気がするからだ。

 驚いたのは、大阪大会のベスト8だった。大阪は1回戦から登場すれば決勝まで8試合を戦わなければならない。そんな全国屈指の激戦区を準々決勝まで勝ち上がった8強のうち、4チームは公立校。交野、桜塚、箕面東、桜宮という顔ぶれだ。いずれも甲子園にはたどりつけなかったが、ほんの数年前ならこのような状況は考えにくいことだった。
 
面白いことに兵庫大会でも8強中、4校が公立校。こちらは長田、明石商、伊丹西、市神港という面々だ。野球留学する生徒が多いことで知られる京阪神地区だが、特待生の採用減や不景気の影響から他県に流れる生徒が減ってきたのではないか、とも推察する。

 公立校だけではない。西東京大会では、早大学院が56年ぶりの4強入りを果たした。早稲田実とぶつかった準決勝は、見間違いそうなユニホームを着た「早早決戦」として注目を浴びたが、早実と早大学院では野球部の強化体制が違う。王貞治記念グラウンドという専用球場を持ち、推薦入試で中学トップレベルの選手が入学してくる早実に比べれば、早大学院は他部との共用グラウンド、難関入試突破組の選手ばかりだ。試合は早実が7−3で勝ったが、早大学院にしてみれば、野球部史に残る歴史的快進撃だったに違いない。

 このように各地で「勢力図の変動」が起きつつあるように見える。まだ明確な傾向とは言い難いが、私学が特待生の枠を絞った結果、実力のある中学生たちが各校に分散するようになったと分析することはできないか。

 日本高校野球連盟は特待生の問題が起きた07年、度重なる議論を経て「特待生は各学年5人以下」というガイドライン(努力目標)を打ち出した。正式に加盟校で導入されたのは09年度入試からだが、08年度に入学した今年の3年生にも影響があったのは確かだろう。

 高野連の調査によると、今年度入試で野球特待制度を採用した学校は456校(軟式3校を含む)。このうち、「各学年5人以下」のガイドラインに沿った学校は405校にのぼる。昨年度比10ポイント増の89%にあたる数字だ。中にはガイドラインを無視するかのように10人以上を採用している学校もあるが、9割の学校は概ね「努力目標」に準じた数で入試要項を決めているようだ。

 戦力の均衡は、単に試合が面白くなるというだけでなく、高校生たちにプレーの場を広げる。これまでは強豪校に有力選手が集中し、その結果、実力がありながらベンチにも入れない選手が後を絶たなかった。しかし、そうした状況も少しずつ軌道修正されようとしているのではないか。次に大切なのは選手の能力を伸ばし育てる指導者の養成。2年前からは若手指導者のための「甲子園塾」も始まっている。そんな活動も全国に広げていってほしいものだ。

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