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vol.500-1(2010年8月13日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

「ユース五輪」で日本も貢献できる

 国際オリンピック委員会(IOC)が主催する新設大会「ユース五輪」がシンガポールで14日に幕を開ける。14〜18歳の若い選手を対象に、競技性よりも教育や文化交流を重視した大会である。商業化や肥大化、ドーピングなどあらゆる問題を抱える従来の五輪を「反面教師」に、スポーツの原点を再び考え直そうという取り組みともいえる。そうした理想に世界のスポーツ界がどう反応するのか、ぜひとも注目したいところだ。

 日本選手団の団長を務める日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は、関係者用のハンドブックに次のような挨拶文を寄せている(一部略)。

 「本大会は、ジャック・ロゲIOC会長が世界の若い世代にスポーツと教育・文化を融合させるために提唱した。従来のオリンピックとは異なり、競技では男女混合種目やNOC(国内オリンピック委員会)混合種目も取り入れるなど勝敗のみならず、スポーツ本来の意義やオリンピズムを実感してもらうことに主眼を置く新しい試みになる。JOCもこの理念に同調し、競技力はもちろんのこと、スポーツを通した人間形成の一環として、選手には世界各国・地域のみなさんと交流を図り、見聞を広めていただきたい」

 日本からは選手71人、役員34人の計105人が派遣され、世界からは約3500人が参加する。だが、ロゲ会長の理想がすべての面で受け入れられたとは言い難い。夏休みのこの時期は競技日程が過密だ。国内ではインターハイや国体予選などと重なってトップ選手の派遣を見送った競技団体もある。外国も同様で、プロ選手の低年齢化が進む中、海外ツアーを転戦する選手も多い。IOCは、選手間の交流を図るため、競技を終えた後も選手村に滞在し、文化・教育プログラムに参加するよう求めている。しかし、全日程滞在には米国などから反対の声も上がったという。

 世界のスポーツカレンダーに影響を及ぼすだけに開催には異論もあるはずだ。トップ選手が少ない大会になれば、メディアの注目度も低くなり、スポンサーもいい顔はしないだろう。だが、そんな現実に直面してもIOCには理想を貫いてもらいたい。そして、我々メディアも従来の報道スタイルや考え方にとらわれず、スポーツの真の素晴らしさを伝える工夫と努力をしなければならないと思う。

 この大会の成果が現れるのは、もっと先になるだろう。大会を経験した若者が年齢を重ね、その理念を世界に自ら広めていった時、ユース五輪の価値は認識される。

 日本は大会に参加するだけでなく、リーダーシップを持ってこの取り組みに関わってほしい。「スポーツと教育」や「人間形成」というテーマなら、日本にも歴史はある。2016年東京五輪の招致失敗をめぐっては、日本スポーツ界の国際政治力のなさを嘆く声が聞かれた。だが、巨大イベントの招致ばかりに熱を上げることだけが五輪運動ではない。発想を転換し、ユース五輪を招致して若者たちに交流の場を提供すれば、より世界に貢献できるのではないか。国際的に信頼されるスポーツ人は、そんな交流の場から育ってくる。世界のスポーツ界が原点に帰ろうと動き出した今だからこそ、やるべきことはある。

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