スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ

vol.503-1(2010年9月17日発行)

滝口 隆司 /毎日新聞運動部記者

国体の根本理念を問い直す時

 千葉国体にエントリーした山口県選手団の約30人の選手が、同県内に住民票登録しながら居住実態がないという問題が浮上し、日本体育協会が弁護士による第三者委員会を作って全国調査に乗り出した。山口県は来年の開催地である。規定の解釈の誤りか、強化実績を上げるための不正か。調査結果を待たなければ分からないが、違反があったかどうかだけをチェックして済む話ではなく、もっと大きなテーマで議論してほしい問題だ。

 国体の参加資格規定によると、選手が参加する都道府県は、成年の場合、@居住地を示す現住所A勤務地B「ふるさと選手制度」が定める出身地(卒業中学か卒業高校の所在地)−−のいずれかから選択することができる。居住地を示す現住所とは、「住所を有し、日常生活をしている所を指す」と示されている。疑いがかけられた山口県の選手は、山口県で日常生活をしていたかどうか、が問われる。しかし、国体選手がどの都道府県から参加するかのルールはきわめて複雑だ。

 たとえば、A県出身の選手が住民票を実家に残したままB県の大学に進んだとする。住んでいるのはB県だ。この場合、居住地と住所が異なるため、A県でもB県でも出場できない。

 「ふるさと選手制度」にしても、活用できるのは「原則として、1回につき2年連続以上とし、利用できる回数は2回までとする」という分かりにくい規定がある。また、一度出場したことのある選手が別の都道府県から参加する時は、結婚や離婚、卒業などの場合を除き、2大会以上置かなければならないという決まりもある。これらはほんの一例だが、参加資格の詳細なルールを読んでいると、なぜそこまで都道府県にこだわらないといけないのか、という疑問が沸いてくる。

 国体の開催基準要項には、大会の目的がこう記されている。

 「大会は、広く国民の間にスポーツを普及し、スポーツ精神を高揚して国民の健康増進と体力の向上を図り、併せて地方スポーツの振興と地方文化の発展に寄与するとともに、国民生活を明るく豊かにしようとするものである」

 また、「大会の実施競技は、正式競技と公開競技とし、正式競技は都道府県対抗で実施する」とも明示されている。五輪憲章は、五輪が国家間ではなく「選手間の競争」であることをうたっている。このことが示すように、スポーツは本来、個人の自主的な活動であることが前提だ。

だが、国体がなぜ都道府県対抗であらねばならないのか、その理由は明確ではない。地方スポーツの振興になるということだろうか。しかし、居住実態がない選手が県の代表になっていることが問題になる現状を考えると、都道府県対抗と地方スポーツ振興に関連性を見いだすことは難しい。

 体協は2003年に国体改革を打ち出し、その後も議論を続けてきた。改革のテーマは大会の肥大化を是正するための効率化と簡素化、トップ選手も参加できるような充実・活性化が主だ。今回のような問題も「一過的で過剰な強化策(国内移動選手問題等)」として指摘されている。だが、何のために、だれのために国体を実施するのかという理念が定まらないから、開催地ばかりが躍起になって強化を進めるいびつな図式が変わらない。いくら「不正」を調査してペナルティを与えたとしても、根本が変わらない限り、本当の改革にはつながらないだろう。

 私の住む千葉県では「国体を成功させよう」という幟やポスターが至るところで見かけられる。こんな問題が起きた今こそ、「成功」とは何かを体協は問い直してほしい。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件