スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.584-1(2013年 8月20日発行)
岡 邦行 /ルポライター

原発禍!「フクシマ」ルポ―19

 8月14日から2泊3日で、南相馬市の少年野球チームが東京に遠征。例年通りに杉並区のチームと親善試合をし、15日夜は東京ドームでプロ野球を観戦した。
 すでに14号に述べたように、この親善試合の歴史は長く、その縁で杉並区と南相馬市は「災害時相互援助協定」を結び、この2年間で杉並区の区民から5億7923万544円(3月末現在)の義援金が届けられた。さらに杉並区役所から8人の職員が「南相馬市復興応援隊」として、南相馬市役所に派遣されている。両自治体は深い絆で結ばれているといっていいだろう。

 8月14日。会場である杉並区の上井草スポーツセンターに出向いた。が、どうも両自治体の雰囲気がおかしい。ひと言でいうとよそよそしいのだ。正直「やっぱりな」と思った。
 その理由は―。この親善大会を終えた2週間後の8月31日から2日間に亘り、今度は南相馬市で「杉並区・取手市・南相馬市交流自治体少年野球大会」が開催される。ところが、杉並区だけが辞退することになったからだ。当然、試合会場となる南相馬市の"少年野球のメッカ"といわれる北新田運動場は除染されたのだが、杉並区は「危険な地域に子どもたちを遠征させることはできない」と不参加を決めたのだった。
 以上の情報を私が知ったのは7月初旬。杉並区の少年野球関係者によると、杉並区にはスポーツ少年団に所属するチームは17あり、保護者たちの間から「南相馬に子どもたちを行かせるわけにはいかない」という声がでた。とくに保護者の中には東電関係者もいて「あんないつまた爆発するかわからない危険な地域に子どもを行かせることができるか!」という声も上ったという。
 もちろん、南相馬市側は杉並区の不参加を素直に聞き入れることはできなかった。私が知る少年野球関係者たちはいう。
 「そりゃあ、杉並の保護者が南相馬に子どもたちをやりたくないということは多少はわかる。でも、東電関係者の保護者から話がでたとなると、ひと言で『それはないだろう!』ですよ。だいたい原発事故を起こしたのは東電じゃないですか。避難せずに住んでる私らをどう思っているのか、聞きたいですよ・・・」

「去年の12月に開催した『南相馬市スポーツ復興祈念』の健康マラソン大会やウォーキング大会のときは、杉並区の子どもたちも喜んで参加してくれた。それなのに少年野球だけは参加できないという。2、3日くらいなら大丈夫と思うけどなあ。納得できない・・・」
「きちんと除染したグラウンドの放射線量は(毎時)0・20マイクロシーベルト以下で、基準値(0・23)を下回っている。そういったことを知っていて不参加を決めたんでしょうかね・・・」
 一方の不参加を決めた、杉並区側の意見はどうだろうか。複数の関係者の話をまとめるとこうだった。
「南相馬市のグラウンドは、この7月で除染が完了したということで、従来通りに南相馬市で開催できる、と。そう思って私たちは、久し振りに南相馬に行けるということで楽しみにしていたんです。ところが、選手の保護者は、人それぞれでいろんな意見を持っている。たしかに東電関係者の人もいますが、保護者は都庁や中央官庁、教育、メディア、保険関係といろんな職種に就いているんですね。そういった保護者たちから『あえて危険な場所に行くことはない』という声が上ったことも事実です。それで役員たちが相談した。たとえば、会場を南相馬市ではなく、放射能とは無縁の場所で開催できないかという意見もでたんですが、結果は断腸の思いで不参加に決めました。南相馬市さんには大変申し訳ないんですが・・・」
 14日の親善試合会場。試合終了までよそよそしい雰囲気に変わりはなかった。南相馬の少年野球関係者の1人は、私にまで不満をぶつけてきた。
「岡さんはネット(フクシマ・ルポ)で、南相馬は除染しても(放射線量が)下がらないと、ヘンなことを書いてる。だから、杉並は南相馬にきたくなくなったんだ・・・」

 2日後の16日。久しぶりに南相馬市に住む、高校の先輩からのメールを受け取った。要約したい。
「昨日、4行政区と仮設住宅の住民と共催で復興盆踊り・花火大会を開催しました。その際、ある議員と私たちは話す機会を持ったのですが、彼が語るには現在の南相馬の放射線量では住民の健康被害はないということでした。
 そう彼が強調するのは、6月22日に京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんが初めて南相馬で講演した際『みなさんは国に捨てられたのですよ。すぐにでも子どもたちを避難させるべきです』という内容の話を繰り返したからです。それに対し議員の彼は『小出さんの見解に従ったら、もっと線量の高い福島市の子どもたちはどうなるんだ』ということです。
 私たち仲間は、子どもだけでも会津あたりに安心して生活できる寄宿舎などを建設できればと考えているのですが、今の線量では安心だというのが国や県の見解のため、いくら議員に訴えても無駄だと思ったわけです。
 現在、南相馬の住民の意見は2つに分かれています。健康に問題なしと考えている人は早期に帰還し、復興を叫んでいる。もう一方の人は健康を懸念し、子どもたちを安心して育てられない地域の復興は無理だといっています。つまり、国や県に見捨てられた者同士がいがみ合っている状態です。私は専門家の小出さんの話を信用します・・・」

筆者プロフィール
岡氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
ページトップへ
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件