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vol.258-1(2005年 7月 6日発行)
岡崎 満義
/ジャーナリスト
スポーツノンフィクションのむずかしさ
杉山 茂/スポーツプロデューサー
〜FIFA、ワールドカップ放送権に“新たな計算”〜
佐藤 次郎/スポーツライター
〜スターとしての覚悟〜
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スポーツノンフィクションのむずかしさ
(
岡崎 満義
/ジャーナリスト)
「ナンバー・スポーツノンフィクション新人賞が、今年の第13回受賞作「甲子園を知らない球児たち」(辰巳寛)で終了となった。
この受賞作は、帰国子弟が大半を占める同志社国際高校野球部員と全国ブランドの“野球学校”常総学院の木内イズムを叩き込まれたコーチとの、どこかちぐはぐながら、人間的な交流を淡彩画風に描いた佳作だ。
甲子園の高校野球という、日本独特の価値観が、あっけらかんとした海外育ちの生徒達の行動で、そのプラス面もマイナス面も鮮やかにあぶり出されている。こってりと厚味のある油絵ではなく、水彩画のようなサラリとした味を、物足りないという人もあるかも知れないが、私はなかなかいい出来栄えだと思った。
それにしても、折角13年つづいた新人賞がなくなるのは残念だ。力のある作品が集まりにくくなった、ということだろう。
選考委員の海老沢泰久さんが書いている。「スポーツノンフィクションには、小説にはないむずかしさがある。小説は誰に取材しなくてもかけるが、スポーツノンフィクションは、現実の選手なり、その関係者なりに会って取材しなければ書くことができない。しかし、無名の新人が、たとえばイチローや松井秀喜に会いたいといったところでどうなるだろう。・・・」
中田英寿がセリエAで活躍しはじめた頃、いわゆる「中田本」の1冊が出版された。これに対して。中田が所属するエージェント「サニーサイドアップ」が、出版差し止めの仮処分を裁判所に申請したことがある。エージェントは執筆者に対して、中田の取材を許可しなかった。肝心の中田への取材をしていないのに、中田本が出るのはおかしい、というのである。
その本の著者は、取材できなかったのは、中田だけで、周りの関係者には中田の家族も含めて取材はできている。本人に会えなければ、その人についての本を書いてはいけないいわれはない。あの立花隆「田中金脈の研究」は、当の田中角栄に会っていないではないか、と反論していたように記憶する。
スポーツノンフィクションのむずかしさは、海老沢さんもいうように、とにかく取材対象に会わなければはじまらない、という点にある。エージェントのガードは固い。会うまでにいくつもの壁が立ちはだかる。無名のライターにはなおさらそうだ。
マスコミに不信感を持つアスリートは少なくない。中田選手のように、自分の本当のことを知りたいなら、私のホームページを見てもらえればそれで十分、という人もいる。しかし取材を通して、いわゆる第3者の客観性というフルイにかけられた事実をもとに書かれたものと、ホームページの私日記とはまったく別物である。
発表誌の問題、プライバシーの問題、インタビュー料や取材費の問題・・・なども出てくるだろう。そして取材対象がプロスポーツの場合、ほとんどがテレビカメラで中継され、あますとこなく映像化されていることも、かえって取材・執筆をむずかしくしている。
マスコミ的状況がひろがればひろがるほど、かえってスポーツノンフィクションはむずかしくなるのだ。
結局は取材者の人間力―何を取材したいのか、を相手に明快に伝えられる力、その問題意識に沿ってインタビューを深めていける力、全体的な構想力、文章力、それらをまとめた人間的魅力―こそが試される。かくて、スポーツノンフィクションはますますむずかしくなるだろうが、それだけにその壁を突破する強い力を持った若いライターの出現を期待している。
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