IT関連の人とマネーが、またぞろ怪しく動きはじめた。楽天がTBSの株を買い進めて、筆頭株主になり、経営統合を提案した。また、村上ファンドが阪神電鉄の株を40%近く買い占め、阪神タイガースの株式上場を求めた。 企業が生きのびるために、どのような手法をとろうと、金科玉条の市場主義経済、どうぞお好きなように、というだけのことだが、プロ野球という公共財が、私企業の恣意的な動きで傷つき、混乱し、数千万のファンを裏切るようなことはごめんこうむりたい。 楽天とTBSについては、私はあまり心配しない。どんな経営形態になろうと、2社はIT通信、テレビという実体を備えた企業である。2社が協力して、新しいメディアを開拓してみせてくれ、といいたい位だ。ひとつの資本・企業が2つの球団を持てないという野球協約があるなら、奥田経団連会長がほのめかしたように、協約を改定してもよい。できなければ、どちらかの球団を売却すればいい。ライブドアのホリエモン社長をはじめ、買い手は必ず出てくるはずだ。 問題は村上ファンドである。村上世彰(よしたか)氏は、子供の頃から、大の阪神ファンだという。ファンとして、タイガースの価値をさらに上げたい、そのための上場だ、という。本心かもしれないが、ハイ、そうですか、とにわかに信用できない。大金はしばしば人の心を裏切る。狂わす。大金はひとり歩きする。上場して、ファンが1株でも買うことができれば、ますます阪神を応援するボルテージが上がるだろう、だから株式上場はファンのためだ、ともいう。 昔、1株運動というのがあったが、あれは何かの反対・抵抗運動としてのものだった。最後の抵抗線としての1株と、楽しみを高めるための1株、のちがいである。同じ1株でも意味がちがう。阪神ファンなら、そんなお節介はやめてくれ、と言うはずだ。何百万株の株主と1株の株主では、話にならない。 だからといって、球団フロントの経営に対して、今のままでOK、とは言えない。阪神だけではないが、球団経営の不透明なことは、あきれるばかりだ。新人選手の契約時の、巨額の裏金など、長年にわたってなぜ国税庁は問題にしないのか、と思うほどである。 村上氏の要求が通れば、いやでも球団経営を透明にし、情報公開がすすむことにつながるだろう。それは大きなメリットである。 今から丁度20年前、私は江夏豊さんの引退式を「Number」誌主催でやりたいと思った。昭和59年夏、江夏投手は広岡監督と衝突、西武ライオンズから石もて追われる如く、日本球界を去った。あれほどの選手なのに、彼が所属した阪神、南海、広島、日ハム、西武のどのチームも、引退試合を企画しなかった。 それなら及ばずといえども、私たちだけでも“引退式”をやりたい、と考えた。舞台はやっぱり甲子園球場、江夏投手とバッテリーを組むのは田淵幸一捕手、打者は生涯のライバルとなった王貞治さん、この3人だけで、シンプルな引退式の青写真を描いた。 ところが、阪神のフロントに手紙を出し、足を運んで1月シーズンオフの球場使用の許可をお願いしたが、これは阪神1球団で決められるような問題ではない、他チームとも相談しなければ、とのらりくらり、ついにラチがあかなかった。冷たい球団だ、と思った。その体質は変わっていないだろう。 そんなわけで、球団フロントへの不満はある。しかし村上ファンドがからんでくれば、本当に大丈夫なのか、と思ってしまう。村上ファンドはバックで海外マネーが支える巨大な金融組織だ。日本の大手金融機関も応援しているようだ。金融UFOのようなもので、儲かりそうなところならどこにでも降下する。今回は阪神電鉄とタイガースに、たまたま(しかし計算づくで)着地しただけではないか。野球の「実」と、金融UFOの「虚」が、うまく噛み合うとはとても思えないのである。 もしも、村上ファンドの重石がとれないときは、球団名は変えるべし。源平合戦の頃、瀬戸内海を牛耳った村上水軍をもじって、「村上パイレーツ(海賊)」と改名してもらいたい。 |