高校野球のセンバツ出場校が決定した。その中に興味深い話題があった。45年ぶりの出場が決まった慶応高である。1916年に夏の第2回全国選手権で優勝した古豪(当時は慶応普通部)で、春は60年以来となる甲子園。その復活の背景に、新たなスポーツ界の動きが読み取れる。 慶応高は2年前から新たな推薦入試制度を始めた。入試の出願資格をみると「9教科の成績合計が5段階評価で38以上の者」といった学力に関する項目に加え、「運動・文化芸術活動などにおいて、顕著な活動をした者」とある。甲子園への切符を得たエースの中林伸陽投手や主将の漆畑哲也選手はこの推薦入試組だという。 強豪校がスカウトした中学生に野球のセレクションを行い、一般入試を前に事実上の内定を与えるケースは多かった。新興の私立校がスポーツ推薦で優秀な選手を獲得し、野球で知名度を上げた例も少なくない。 そして、慶応高のような歴史と伝統のある学校も、柔軟な入試制度で有能な人材を集めるようになってきたのだ。同じく古豪の早稲田実業・高等部でも、推薦入試の60人枠のうち、50人が「スポーツ・文化分野」での募集。スポーツで出願できる資格は、競技種目や中学時代の大会成績まで細かく指定されている。 この流れは、大学の入試改革につながるものだろう。慶応大では、90年から湘南藤沢キャンパスでAO(アドミッションズ・オフィス)入試が始まり、それが全国の大学に波及した。慶応大のラグビー部が創部100周年の90年シーズンに全国制覇を果たした時、主力メンバーはAO入試組だった。大学側はあくまで幅広い分野での人材育成を標ぼうしており、体育会の強化策という位置付けではない。とはいえ、もはや学力テストだけに固執する時代は終わっている。 早稲田大でも、体育会各クラブの部長が人選できるスポーツ推薦制度を2000年度から人間科学部でスタートさせ、「強いワセダ」の復活を支えた。この“スカウト制度”は03年開設のスポーツ科学部に引き継がれ、さらに自己推薦制度も加わって、今年は約120人の選手がワセダの門を叩く。 中高一貫教育を掲げる学校が人気を集めている。数年のうちには能力あるスポーツ選手を中学入学の段階から集めようとする動きが出てくるかも知れない。実際、卓球の福原愛が通っていた青森山田中学には、スポーツコースが設けられている。バレーやサッカーでも日本協会が英才教育のプロジェクトを進め、将来の日本代表を担う人材の育成を中学生から行う。有能な選手の争奪戦はますます低年齢化していくに違いない。
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