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vol.326-1(2006年11月 7日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
女子マラソン・有森裕子さんの魅力

 マラソンの有森裕子さんに会った。毎日新聞読書欄の名物コラム「好きなもの」の取材だった。最近までアメリカに滞在していた有森さんは、来年2月の第1回東京マラソンに出場するため、ずっとトレーニングを続けていたようだ。顔は日焼けし、体も引き締まっていた。

 「2月のマラソンで、現役生活にピリオドを打つつもりです」と言った。あとは、数年前に立ち上げた株式会社「ライツ」の事業を拡充させていくのだろう。こどもたちへのスポーツ指導、アジア・アフリカの国々へのスポーツ親善大使など、さまざまなユニークな活動がさらに強化されそうだ。

 陸上競技の選手として、はじめてのプロ宣言をして、スポーツ選手の権利を正当に行使することで、スポーツ文化を高めていこう、という強い意志を見せた最初の人だ。プロ宣言直後、たしか「がんばれ、ニッポン」キャンペーンのJOCがもっていた、有名選手の肖像権を、自分の手に取り戻した第1号が有森さんだったと記憶する。

 肖像権がその当人に属するものであることは当たり前なのだが、上下関係のきついスポーツ界でそれに異を唱えることは抵抗も大きかったはずだ。超法規的に個人の肖像権をJOCが召し上げてしまうことに、はっきり「NO!」と言った勇気は大したものだ。

 日本女子マラソンは佐々木七恵、増田明美、浅利純子、有森裕子、高橋尚子、野口みずきなど、絶えることなくすぐれた人材を次々に排出している。中でも有森さんの活躍ぶりは、オリンピックで2つのメダル(バルセロナで銀、アトランタで銅)獲得もさることながら、「ライツ」での国際的な活動には目を見張るものがある。スポーツ文化の将来を占ううえで、彼女の活動からは目が離せない。

 取材の中で、彼女は最近の企業スポーツの低迷を嘆いた。「スポーツがすぐビジネスとつながってしまう。つながってもいいんだけれど、もともと、人間を元気にするのがスポーツ、景気がよくてもわるくても、スポーツは文化として変わらない価値をもっているはずです。経済の状況がわるいと、スポーツも手放す、というのは逆で、そんなときこそスポーツは大事だと思うのですが・・・」

 スポーツは文化だ、とゆるぎない価値を認める社会を作るのは、容易なことではない。「私、この頃、ボキャブラリーが少ないことを痛感してるんです」と、意外な話になった。「自分の感情でモノを言うことはできるのですが、これから40代に入っていき、だんだんとつきあいが広がってくると、今、自分のもっているボキャブラリーでは足りない。英語で話すとなると、なおさらそれを感じます。いろんな国へ行って、同じもの、同じ状況を見ているわけでもないのに、同じ言葉でしか表現できないもどかしさを感じます。女性の置かれた環境などは、インドでもタンザニアでもほぼ同じで、その感想は同じでもいいかもしれないけれど、それぞれの国の特徴をどう見たか、と問われたりすると、なかなか具体的に話せない。最近、エチオピアへ行ったときも、そのことを感じました。これが今後の私の問題だな、と思っています」

 だから、これからもっともっと本を読みたい、と言った。冷静な自己認識、誠実な人柄である。この気持を持ち続けられれば、これから有森さんはひと回りもふた回りも大きくなりそうだ。国内はもちろん、国際的な活動の広がりが楽しみである。

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