以前、女子走り幅跳びの好敵手、池田久美子と花岡麻帆の両選手のことを書いたことがある。大柄、といっても166cmだが、どこかふっくらと曲線的な感じのする池田と、鋭く直線的な体の花岡とは、見るからに対照的で、2人の競り合いには、いつもどちらが勝つか、ワクワクさせてくれるものがあった。 先頃、カタールで開かれたアジア大会でも、2人は日本代表として出場したが、今回は池田選手が圧倒、自らもつ6m86の日本記録に迫る6m81を跳んで36年ぶりの金メダル。アジアでは頭ひとつ抜け出て、いよいよ世界レベルの7mも狙えるところまで来た。 金メダルの翌日の夕刊(朝日、毎日、読売、東京)では、池田の力強い跳躍と日の丸を両手でひろげて競技場を走る姿が大きく紙面を飾った。とくに、跳躍の写真は4紙いずれもなかなかの迫力だった。朝日と読売は、両手をまっすぐ天に向って突き上げ、右脚は大きく前に伸ばし、空中を駆け抜けているような写真。東京と毎日は両手両脚を前に力一杯伸ばし、胸と太腿がくっつきそうなほど折りたたまれ、着地寸前の一瞬を捉えている。 こうなれば好みの問題だが、私は東京、毎日の写真により迫力を感じた。東京(岡田道弘撮影)はほぼ正面から、毎日(木葉健二写す)はやや左前方からのアングルで、両手両脚の位置から見ると、東京の方がほんの一瞬、シャッター時間がおくれているようだ。 さて、この2枚のうちどちらがすぐれているか。これも結局、好みの問題になりそうだが、私は毎日をとりたい。髪が風をうけて逆立っている点、何よりも両脚の太腿の下側の筋肉の力感が、みごとに捉えられている。これは傑作写真だと思う。万にひとつのシャッターチャンスを逃さなかった。シャッターを押す指運があった、ということか。いや、今はモータードライブで機関銃のようにシャッターを切るから、カメラマンの立つポジションの違いの方が大きいかもしれない。毎日と東京の2枚の写真は切り抜いて紙に貼り、飽かず眺めている。 記事では朝日の堀川貴弘記者のものに軍配をあげたい。何がよかったかといえば、指導者の福島大学・川本監督のコメントが光っていたことだ。 「助走の最後の4歩で間がよくなった。川上哲治さんの“ボールがとまって見える”ほどではないが、池田は踏み切りに入るところをスローモーションのように捕らえられるのではないか」 走り幅跳びの精緻な技術論が、“ボールが止まって見える”という誰もが記憶している野球の打撃論と交叉することで、素人にもわかるふくらみがでている。スポーツの一瞬は殆ど目に見えない。何かを感じられれば上出来だ。川本監督のコメントは、スポーツの一瞬を鮮やかに言葉でとらえてみせてくれたものだ。そのコメントを引き出した堀川記者はすばらしい。 |