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第20回オリンピック冬季競技大会(2006/トリノ)スピードスケート・男子500m CHEEK Joey(USA)
(C)photo kishimoto


第20回オリンピック
冬季競技大会(2006/トリノ)
スピードスケート・男子500m
CHEEK Joey(USA)

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(C)photo kishimoto
vol.289-2(2006年 2月17日発行)
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者

コスの情熱がトリノでも燃えている



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コスの情熱がトリノでも燃えている
滝口 隆司/毎日新聞運動部記者)

 スピードスケートの男子五百bを制した米国のジョーイ・チークが、米国オリンピック委員会からの報奨金2万5000j(約300万円)を、難民となったスーダンの子どもたちを助けるために慈善団体に寄付するという。このニュースを読んだ時、私には思い当たるふしがあった。きっとあの組織、「ライト・トゥ・プレー」(RTP)に違いない―。

 RTPを取材したのはアテネ五輪の前だった。会長を務めるのは、94年リレハンメル五輪のスピードスケートで金メダル4個を獲得したノルウェーの英雄、ヨハンオラフ・コス氏である。

 リレハンメル五輪組織委員会が始めた「オリンピック・エイド」という活動の大使に選ばれたのが、そもそものスタートだった。コスは金メダルの報奨金を活動に寄付し、戦火のサラエボを訪れた。その後もアフリカの紛争地などを回り、積極的にスポーツを通じての国際平和活動に乗り出した。

 当初は「オリンピック・エイド」の名称で世界各国を回っていたが、五輪選手以外にも活動の輪に加わってもらいたいと「ライト・トゥ・プレー」という名前に変えた。本部はカナダ・トロント。読んで字の通り、すべての子どもたちに「プレーする権利」が保証される世の中にしたい、という思いがある。

 コスへの取材はメールを通じてだったが、彼はこんな答えをよこしてくれた。「今の世界で、スポーツが持つ人道的な必要性はかつて以上に高まっている。スポーツは国境や文化、宗教を越え、平和と寛容、理解を促進する強力な車になりうる。(国同士の)交渉の道が閉ざされた時、スポーツが和解に導くこともある」

 トリノからの報道によれば、コスに憧れを抱いてきたチークは、レースの後にこう話したという。

 「スケートはとても楽しいし、私は自分のしていることを愛している。世界を知り、友とも出会うことができた。ただ、正直なところ、馬鹿げたことをしているようにも思える。タイツを履いて氷の上を滑りまわっていることがね。でも、オリンピックで偉大なことができれば、何か意味のあることができるのではないかと考えていた」

 26歳。この五輪で引退するというチークはコスへの尊敬の念と活動への関心からRTPへ報奨金寄付を思い至った。RTPの公式ウェブサイトによれば、42カ国、数百人に及ぶアスリートたちがこの活動に参加している。残念ながら日本の選手は皆無だが、世界のトップアスリートは自分の競技だけでなく、社会貢献への意識も高いのだ。

 「パッション・リブズ・ヒア(情熱はここに)」のスローガンを掲げたトリノ五輪。コスの情熱も、熱戦の裏で静かに燃え続けている。


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