9月末に開幕する兵庫国体の映像がインターネットで配信されるという。国体史上初の試みは、今後のスポーツ中継がどう変わるのかを考えるうえでも大いに注目される。ただし、そう簡単にやっていいものか、と疑問が残るのも事実だ。 まずは概要を説明したい。スポーツ芸術を除く39競技の全試合に加え、開閉会式や各会場での表彰式などが配信され、これを生中継とビデオ・オン・デマンド(見たい時に見られる録画中継)で見られるというわけだ。 各会場のカメラ台数は競技に応じて検討されており、原則的にカメラ3〜4台の映像を切り換えながら配信映像を制作するという。 では、その映像はだれが作るのか。兵庫県・のじぎく国体局のメールマガジンによれば、「映像の作成・配信は専門業者に委託しますが、県民総参加を目指す国体の観点から、撮影とアナウンサーの補助は県民の方にも参加いただこうと、市町が中心となって総勢500人を募集しています」とボランティアの応募を呼びかけている。 しかし、2月末の研修会では明石市と尼崎市から12人の応募があっただけに過ぎず、500人を集めるのは容易ではないだろう。 技術革新の時代。専門業者が入って簡単なマニュアルを作り、それを県民ボランティアに教えれば、何とかなるのかも知れないが、「国体史上初」と謳う事業をボランティアに頼るのもどこか安易ではないか。一方、委託される専門業者はこのノウハウを今後のビジネスに利用するだろう。 国体局では各スポーツの中央競技団体に次のような協力を依頼している。 「肖像権等の権利関係の対価なしでの処理について、ご承諾いただきますようお願いいたします」 この依頼に対し、早くも一部の競技団体からは異論が出ているという。肖像権を含む映像の権利関係をもっと慎重に考えてほしい、という声だ。 たとえ、中央の競技団体が協力姿勢を示しても、選手が拒否するかも知れない。すでにそうした例が出てきているではないか。 日本オリンピック委員会(JOC)は昨年からシンボルアスリートという制度を作り、トップアスリートの肖像権を預けてもらう代わりに、その対価として1人につき1000万円〜2000万円を支払った。しかし、水泳の北島康介やスピードスケートの清水宏保、マラソンの野口みずきらは自由な商業活動や競技への専念を理由にこの制度には協力しなかった。 もちろんネット中継にはメリットも大きい。全競技が中継されることで、マイナー競技にとっては露出の機会が飛躍的に増える。これまで文字の記録速報しかネットでは見られなかったスポーツファンにも、非常にありがたいサービスだ。しかし、今、国体は簡素化を目指すとともに、トップ選手が集う「高度化」も志向している。だからこそ、競技の背後でうごめく「権利」にも慎重でなければならない。 |