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vol.305-2(2006年 6月16日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
「アスリート 橋本聖子」の手腕を

 不祥事で揺れる日本スケート連盟の会長に、スピードスケートの元五輪メダリスト、橋本聖子さんの就任が確実になった。理事就任を受諾した橋本さんは理事会の互選で会長が選ばれる手続きに配慮しており、まだ明言は避けているようだが、スケート界の「切り札」として連盟立て直しへの期待は大きい。

 スケート選手としての実績、国会議員としての活動も考えると、反論が出ようはずはない。ただし、今回の一連の不祥事が示すように、スケート界は特にフィギュアを中心に“裏”でカネが動く世界でもある。その悪習を排除するのは、スピードスケートの出身者としては容易ではないだろう。

 かつて、柔道の山下泰裕さんが国際柔道連盟の理事に立候補した時、山下さん本人からこんな話を聞いたことがある。

 「山下よ、お前も『スポーツ政治』の世界に足を踏み入れるのか、と言われる人がいてね」

 競技団体の役員になるということは、「裏の世界」にも入り込むことになる。そんな忠告をする人がいたそうだ。正々堂々と畳の上で戦った「世界の山下」が・・・、という心配だったのかも知れない。

 しかし、国際柔道連盟の教育コーチング理事となった山下さんは、世界各国を飛びまわって柔道を普及するだけではなかった。2年前のアテネ五輪直前、地元の新聞に広告が載った。それは五輪を通じて世界平和を訴える内容だった。山下さんとアテネ市のバコヤンニ市長が顔写真を並べ、五輪期間中は世界中のあらゆる紛争をやめましょう、という「五輪休戦」のメッセージを掲げていた。そうした活動は国際連盟の理事になったからこそ、出来た仕事でもある。

 就任が決まれば、橋本さんも「スポーツ政治の世界」に足を踏み入れることになる。橋本さんの場合、すでに政治の世界で活動しているのだから、山下さんとは立場が異なるかも知れない。しかし、「政治家 橋本聖子」の立場で会長に就任してほしくはない。

 今、スポーツ界は急速に政治との関係を強めているように思われる。日本体育協会の会長に森喜朗・前首相が就任したのが特徴的な例だ。ナショナルトレーニングセンターの建設を含め、政府からの支援を得るには政治家を抱き込んだ方がいい、という発想がスポーツ界のいたるところに垣間見える。

 だが、スケート連盟があらゆる「裏の世界」と関係を断ち切って正常化を図るには、やはりスポーツ人ゆえの発想と指針が必要だ。苦しいレースに顔をゆがめながらゴールした橋本さんの姿を多くの国民はまだ覚えている。冬季五輪を4度、自転車でも夏季五輪を経験した「アスリート 橋本聖子」ならではのリーダーシップを見てみたい。

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