高校野球の連載をするために中学生の硬式野球を取材していたら、水面下に驚くような動きがあることに気がついた。中学球界では学校の部活動が衰退し、硬式野球のリトルシニアやボーイズリーグに子どもたちが流れている。それが今の甲子園予備軍にもなっている。ところが、さらに一歩先を行く話があるというわけだ。 シニアの日本選手権関西大会の現場に行ってみて、関西連盟の役員に話を聞いた。「シニアはものすごく増えていますよ。ここ2年で全国で50チームはできました。関西は現在105チーム。ここ3〜4年で35チームぐらいは増えましたねえ」とこの役員は現状を説明した。中学生の部活動は指導者不足。次々と中学球児が硬式に移り、その受け皿として新しいチームが誕生しているのだという。それは、ある程度は予想できた内容だった。 ところが、この役員はもう一つの実態を明らかにした。 「鹿児島の神村学園とか、青森山田、長崎海星なんかが中等部に硬式野球部を作ってシニアに加盟しているんですよ」 いずれも強豪の私学である。中学の部活動でありながら、日本中学校体育連盟には所属せず、ボランティアのチームで構成されるシニアに加盟しているというのだ。こうした動きは約5年ぐらいで加速してきたようだ。 神村学園は「中高一貫教育(指導)による硬式野球の実践」を野球部の目標に掲げている。中学の硬式野球部は2001年度からのスタート。高校は昨春のセンバツで初出場ながら準優勝を果たした。 日本高校野球連盟は昨年11月、「中学生の勧誘行為の自粛について」と題する通達を全国の連盟に送付している。中学生の進学の際に高校側のスカウトやブローカーが動き、時に金銭の授受さえ行われるという、過剰な実態を是正しようという意味での通達だった。 しかし、中高一貫となれば、こうした通達も意味はなくなる。強豪私学はこぞって中学に硬式野球部を作り、「中高一貫」の野球指導をアピールし始めるに違いない。 心配されるのは、選手の「青田買い」がますます低年齢化し、小学生がその対象となることだ。この手法は野球だけでなく、他のスポーツの強豪校でも採用されるだろう。これも少子化時代の子ども争奪戦のひとコマかも知れない。 しかし、スポーツ強豪校の中高一貫化が何をもたらすかは今後、議論が必要になってくるだろう。教育界では中高一貫校の増加が、格差社会につながるという意見が根強い。親の経済状況によって教育に格差ができ、それで育った大人にも格差が出てくる。スポーツにも同じことが言えるのではないか。中高一貫指導で育てられるエリート選手ばかりのスポーツ界に魅力はあるか。選手は早い段階で選別され、「未完の大器」などもいなくなってしまうのか。 |