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vol.318-2(2006年 9月15日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
巨人ではなく、早大に入る時代か

 卓球の福原愛(青森山田高)が、早大スポーツ科学部のトップアスリート入試に合格したというニュースが飛び込んできた。早大が世界で通用する選手を集めようと昨年から始めた制度で、今回は6人の入学が決まった。その顔ぶれの中で、気になる選手がいた。

 一昨年の甲子園で春は優勝、夏は準優勝を果たした愛媛・済美高校のエース、福井優也だ。福井は昨秋の高校生ドラフトで巨人から4巡目で指名を受けた。ところが、球団の評価などに対して交渉が折り合わず、プロ入りを拒否。1年間の浪人生活を経て早大に合格した、というわけだ。

 巨人に入るために他球団の指名を拒否して大学に入り、4年後に巨人の指名を待つのなら分かる。しかし、今回は巨人の指名を拒否して大学入る珍しいケースだ。

 こんな例は、どうも福井だけとは思えない。巨人とは関係ないが、大学進学を表明した早稲田実の斎藤佑樹のケースもその一つだろう。日本高校野球連盟に提出を義務づけられているプロ野球志望届は、きょう15日に締め切られるが、米国に遠征した全日本選抜メンバーや甲子園を沸かせたトップ選手の中でも、プロ候補と注目されながらプロ志望届を出していない選手がかなりいる。これは意外なことだ。20数年前のことになるが、同じ早実でも荒木大輔は系列の早大へは進まず、ヤクルトにドラフト1位で入団した。PL学園の桑田真澄も早大に進学すると言いながら、巨人にドラフト指名されると、プロ入りを決断した。その当時との違いは何であろうか。

 4年間待てば自由に希望球団を選べるのだから、焦る必要はない、と考えるのは当然だろう。だが、理由はそれだけでもないはずだ。大学にそれなりの魅力が備わってきたからではないか、と思う。

 早大は徹底したスポーツ強化を進めてきた。かつて教育学部の体育学専修で行われてきたスポーツ推薦入試には、全国大会●位以上、学業成績は評定平均3・5以上という基準が設けられていた。この「特別選抜」は、体育学専修から人間科学部(87年創設)、スポーツ科学部(03年創設)に継承されたが、これとは別に、99年からは体育会の各部長の推薦があれば面接のみで入学できる推薦制度を導入。当時、早大は体育会全体が低迷。「強いワセダ」の復活を目指し、優秀な高校生の「スカウト」に乗り出したのだ。そして、この制度をさらに高度化させたものが、トップアスリート入試。こうしてスポーツ選手に対する門戸を広げてきたのである。

 早大に続けとばかりに、多くの有名私大がスポーツ推薦を充実させ、そのブランド力を競い合うようになってきた。企業スポーツ以上の施設を持ち、じっくりと競技に取り組める環境。さらに勉強も積めば、人生の選択肢も広がる。そんな魅力がプロをも凌駕し始めたということか。一方で「学力を無視してスポーツの実績だけで入学させるのはいかがなものか」という意見も一部の大学には根強く残る。ただ、大学全入時代で生徒の奪い合いが激化する中、そうした声が少数派になりつつあることも事実だ。

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