スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.321-3(2006年10月 6日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
五輪出場権を得るのは国か個人か

 中国・広州で行われていたレスリングの世界選手権が1日に閉幕した。日本は男子が軒並み苦戦、女子は5階級で金メダルを獲得するという結果に終わった。そんな中で気になるニュースがある。世界選手権の前に当地で開かれた国際レスリング連盟(FILA)総会の決定だ。

 総会では、2年後に行われる北京五輪の出場権の獲得方法が議論され、その第1段階として、来年の世界選手権の五輪実施階級で8位以内に入った選手個人に出場資格が与えられることが決まった。

 これを受け、日本では世界選手権で出場資格を得た選手をその時点で五輪代表に内定し、07年12月にある全日本選手権に出場すればOK、とする方針だという。

 ちなみに04年アテネ五輪では、前年の世界選手権で、男子は10位以内、女子は5位以内に入った国・地域に五輪出場権が与えられた。これを第1段階の出場権獲得ステージとして、この他にも第2、3段階の方法が決められていたが、いずれにせよ、出場権は個人ではなく、国・地域に与えられ、各国は国内の代表選考会を開いて出場選手を決めていた。レスリングだけではなく、柔道などでも同様だ。

 選手からすれば、自分が五輪出場権を獲得したのに、国内選考会で負けて五輪の舞台を踏めないという手続きには不満もあっただろう。しかし、勝ち取った出場権がその本人に与えられるのであれば、この方がフェアだという声が大半を占めるに違いない。

 五輪憲章は「オリンピック競技大会は、個人種目または団体種目での選手間の競争であり、国家間の競争ではない」と定めている。スポーツは個人の自由な活動であって国家に利用されてはならない、という理想がこの文言に込められている。個人に出場権が与えられる方が憲章の理念にも合致しているのは明らかだ。

 ただ、なぜFILAがこのような方法を決定したかを考えることは意味がある。まず、この方法ならもめごともなく、すっきりと代表を選べるという点はいえるだろう。さらに言えば、よりレベルの高い選手を出場させるためには、国・地域の枠にこだわるよりも、選手個人で選んだ方が得策だ。そうなれば、これまで以上に世界のトップが集う競技会が実現する。プロにも開かれた現在の五輪は、あくなき「高度化」を目指している。

 だが、反対の意見もあっていい。「個人」重視の方式が各競技で進んでいけば、五輪は強豪国の選手ばかりになってしまう可能性をはらんでいる。たとえば、日本選手がひっきりなしに登場する柔道を想像してみる。日本のファンにとってはいいかも知れないが、弱小国といえる国の人々は柔道に関心を持つだろうか。世界的な普及という点を考えれば、国・地域のバランスも考慮する必要があるはずだ。

 世界最高の競技会を追求する五輪。その一方で「参加することに意義あり」の精神も忘れ去ることはできない。常に議論になる、国か個人か―。簡単には割り切れないテーマだ。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件