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vol.340-1(2007年2月20日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
大相撲の八百長疑惑報道を考える

 朝、毎、読などの全国紙のスポーツ欄で、まず見ることのないテーマは、大相撲の八百長問題である。もっぱら週刊誌の独占提供となっている。

 今回も週刊現代が八百長疑惑を報じ、これに対抗して相撲協会は同誌を名誉棄損で訴えるようだ。

 「同協会顧問の伊佐治啓二弁護士が、東京・両国国技館で小結稀勢の里、平幕把瑠都を事情聴取。3月上旬までに訴状を整えて民事提訴することを明言した上で、賠償額について『決めていないが、協会を含めて18人の原告の気持ちがあるので相当な額になる』と明言した。さらに『00年に旭鷲山が八百長を報じた週刊ポストに個人で約3000万円で起こした民事提訴を参考にしている』と話しており、協会が大相撲全体の名誉をかけて闘う姿勢から、今回は1億円を超える見込みだ」と、2月11日付の日刊スポーツが報じている。

 これまでも四季の花や板井が“八百長告発”をしたことがあったが、協会は無視、あったのか、なかったのか、あいまいなまま、うやむやのうちに忘れられていった。
 
 音楽評論家の吉田秀和さんは大の相撲好きで、すばらしい相撲エッセイをいくつも残している。その吉田さんが、八百長問題を見て見ぬふりをしてやりすごした相撲協会の態度に痛く失望、以来、相撲について書くことはなくなった。惜しい相撲ファンを1人失ったことになる。

 私も週刊文春のデスク時代、八百長問題に取組みかけたことがある。昭和52年頃のことだったと思うが、元幕内力士のTが、ある人を通して「八百長の実態を暴露したい」と売込んできた。早速、取材チームをつくり、まずTからくわしく、具体的にかかわった力士の名前をあげてもらいながら、日時、場所、双方の連絡のとり方・・・などこと細かく速記にとった。そのあとで名前の出た力士やその親方を取材するつもりだった。

 そのうちに妙な噂が、ある新聞記者からもたらされた。Tが協会をゆすっている、というのだ。ン千万円出さなければ、近々出るはずの週刊文春で、八百長記事が大きく載る、今ならとめることができる、と。

 調べてみると、それは事実だった。ゆすりの片棒をかつぐわけにはいかない。あっさりあきらめた。

 天災は忘れた頃にやってくる、というが、八百長は10年おきぐらいに話題になる。どこにその温床があるのか。

 かつて無気力相撲が国会で取上げられたことがあった。あまりにあっさり、一方的に土俵を割ってしまう相撲が、ヤリ玉にあがった。7勝7敗で千秋楽を迎えた力士が、そろって勝ち越して、八百長ではないか、と言われたこともある。

 1月場所の大関栃東を見ていると、悪いヒザをかばうため、土俵際ではふんばることができず、何の抵抗もなく土俵を割っていた。ケガを抱えた力士の相撲は、一見、無気力相撲に見えてしまう。力士として、そこが辛いところだろう。

 一度でも相撲部屋の稽古を覗いてみるといい。早朝からの土俵では、きたえられた肉体がぶつかりあっている。ぶつかるごとに、グシャともガキッともつかない音が、見ている者をふるえ上がらせる。あの音を聞くと、軽々しく八百長相撲がある、などとは言えなくなってしまう。

 八百長疑惑を払拭するいい手立てはない。毎日の幕内の相撲の中で、今日の一番、という熱戦と、これは最悪、という一番を、プロの評論家や番記者が心技体に則して、ていねいに報じることが、せめてもの“疑惑”予防につながるかもしれない。

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