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vol.348-1(2007年4月17日発行)
岡崎 満義 /ジャーナリスト
専大北上問題を考える

 専大北上高校が、硬式野球部を解散する、と発表した。かつて在籍していた早大選手が西武ライオンズから裏金をもらっていたこと、野球コーチもそれにからんでいたこと、野球部員に入学金、授業料、寮費などを免除する特待生制度の存在が明らかになったこと、それが日本学生野球憲章に違反したことになり、高野連のきびしい処分が出る前に、謹慎の意を表わして解散にふみきったようだ。

 この問題の根を考えてみたい。批判する前に、その環境を考えたい。

@専大北上にかぎらず、野球有名校は高校生の野球、というよりも、「甲子園野球」をしているのだ。高校の中に普通科や工業科、商業科などと並んで、「甲子園野球」科がある、と考えた方がわかりやすい。全国の有名進学校に「東大進学」科があるのと同じことだ。東大進学にも小学生の頃から、相当な教育費を必要とする。「甲子園野球」科にもお金はかかる。親だけで負担できるかどうか。「甲子園野球」は、よくもわるくも、日本文化の基本のひとつである。プロ野球は大金を裏金として選手獲得に使える余裕があるのだから、この際、思い切って、12球団がまとまって「野球奨学金制度」をつくってみたらどうか。スポーツ推薦で入学させる大学や企業も、そのファンドに加わるといい。大乗的見地からの、野球少年サポート制度である。

 専大北上野球部解散を報じる4月17日付朝日新聞スポーツ面に「平成ひとけた―エージェント時代」という、同じ記事があり、フィギュアの高校生・浅田真央選手がとりあげられていた。「昨季、浅田が競技生活に要した費用は約4千万円」「いま、浅田がCM契約を結ぶのは大手企業5社で約2億5千万円(推定)とされる」。プロアマの垣根がなくなって、オープン化したスポーツは、とにかく金がかかる。拝金主義がまかり通りやすい環境になっている。

A野球留学が悪い、と批判される。それが裏金がとびかう温床になる、と指摘される。そうだろう。しかし、私は野球留学に反対ではない。とくに地方の高校のそれは、むしろ結構なことだ、と思う。それでなくても、何かにつけ東京一極集中の磁力がつよいこの国では、地方はひどい過疎化に悩まされている。たとえ、3年間でも都会から生徒がやってきて暮らすのはわるくない。
 
 数年前、奄美大島で小中学生の農山村留学を取材したことがある。東京や大阪の不登校児が10人近く、小中併設校にいて、元気に勉強していた。農家にホームステイするかたちで、町が生活費の半分を農家に援助するシステムだった。1人のおばあさんが、「うちであずかった子は中学を卒業したあと、アメリカに留学したが、台風のときなど、大丈夫ですか、とよく連絡をくれるんです」と喜んでいた。その子にとって、奄美は第2の故郷になっているのだ。高校の野球留学も、そんなふうになっていけばいいと思う。

 甲子園野球は純粋な郷土代表チーム(たとえば石垣島の八重山商工のような)と、クラブチーム(サッカーJリーグのような)が混在していると考えればよい。少子化時代になればなるほど、クラブチーム風になっていくのが自然な流れだろう。

B「甲子園野球」は新聞、テレビ、雑誌などマスコミが過剰なほどに手を加え、つくり上げた文化である。高校スポーツの中で甲子園野球だけが突出している。プロ野球も顔負けだ。全国高校サッカー、ラグビー、高校駅伝がテレビで放映される程度で、他のスポーツは、たとえば高校総体などは、新聞のスポーツ欄でもベタ記事扱いである。高校スポーツという観点に立てば、まことにいびつなかたちである。それでも100年近い歴史をもつ「甲子園野球」は、まちがいなく日本文化の基本である。他の高校スポーツ並にせよ、というのは非現実的なやり方だし、できもしない。悪い所を少しずつ修正しながら、つづけていくしかないだろう。

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