未来学者、アルビン・トフラーの「第三の波」(中央公論社)を久しぶりに読んでいる。1982年に日本に紹介されたこの名著は、第1の波を農業社会、第2の波を産業社会、そして第3の波を情報化社会として位置付け、今後起こりうる人間生活の変化を著したものだ。私自身もこの書を手にしてからすでに15年近くがたっている。 そんな古い本を再び広げてみる気になったのも、正月2日にNHK衛星第1放送で「『未来への提言スペシャル』」
未来学者 アルビン・トフラー 〜田中直毅 “知の巨人”との対話〜」という番組が放送されていたからだ。初版が書店に並んだ頃、まだパソコンやインターネットも全く普及していなかったが、今読んでみても、現在のわれわれの生活を的確に予測している。 第3の波がもたらす生活の変化として、トフラーは「プロシューマ−」という言葉を使う。日本語で「生産=消費者」と訳され、物を作るプロデューサーとそれを消費するコンシューマーとを1人で兼ねられる時代がやってくる、とトフラーは指摘する。 たとえば、一般の人が日曜大工の大型店でドアを買って自宅につける。ドゥ・イット・ユアセルフ、つまりDIY時代である。ドライバーが自分でガソリンをマイカーに入れる。スーパーで買い物をした主婦が商品のバーコードを機械に読み取らせて自分で支払いを済ませる――といったことも広い意味ではプロシューマ―の行動だ。サービス業が行ってきた仕事は、そうして消費者行動の一部に組み込まれていく。 インターネットの世界では「ウィキペディア」という読者投稿による百科事典が人気を博している。調べものをする時、ずいぶんとお世話になっているが、この例が番組で紹介された時、私はスポーツメディアにも通じる新時代の到来を感じざるを得なかった。 スポーツネットメディアの大手「スポーツナビ」で高校サッカーのページをのぞくと、「感想をブログで書こう」という欄があった。試合を見た読者がそれぞれのブログで意見を書き、それが連携する仕組みになっているのだ。市民ジャーナリズムとして韓国で大きな話題を呼び、日本にも上陸した「オーマイニュース」というサイトの日本版を見ると、スポーツを含む多くのニュースを一般市民が「ジャーナリスト」として投稿している。 ニュースを消費する読者が、ニュースを生産する記者にもなりうる時代になってきたということだ。もちろん、その大半はまだ「感想」の域を出ない。当面はこうした素人のメディアと職業的メディアが相互補完的に作用していくのだろうが、中にはプロに決して劣らない詳しい内容や深い洞察を持った記事に出くわすことも少なくない。 今年は五輪やワールドカップもなく、正月の各紙はサッカー天皇杯や箱根駅伝、高校サッカー、高校ラグビーといったお決まりのイベント記事に終始した。だが、十年一日のごとく変わらない内容に読者がいつまで付き合ってくれるだろうか。「第3の波」のうねりにのみ込まれていることを強く意識しなければ、時代に置いていかれる。 |