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vol.345-2(2007年3月30日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
希望入団枠撤廃、これで一件落着か?

 「東京でコミッショナー(代行)が会見して希望入団枠の撤廃を発表するらしい」。そんな情報が、私のいる甲子園の記者席に入ってきたのは28日の夕方だった。センバツの第3試合の最中。その試合終了後に、日本高校野球連盟も記者会見を行う、とプレスリリースが記者席に配布された。

 プロ野球、西武のスカウトによるアマチュア選手への裏金供与問題。これに端を発するドラフト制度の改革がどう進むのか、は今回の大きなテーマだ。そんな一連の問題の取材過程で、不思議とも思える情報が私の耳にも入ってきたのは3月中旬だった。巨人の清武英利代表が他球団に先立って「希望入団枠撤廃とFAの短縮」を提案したというのだ。

 これを聞いた時、「巨人はどんな狙いを持っているのか」と奇妙に思えた。希望入団枠の撤廃とFAの短縮は、プロ野球選手会も提案していたことだ。単純に考えれば、これに反対する球団はいないのではないか、とさえ思われた。

 しかし、そうはならなかった。巨人案のキーポイントはFAの短縮年数にあった。FAの取得年数は現在9年。これを巨人案では、国内移籍に限り、@高校生は6年A大学生・社会人は5年─と短縮し、海外移籍の場合は現在のまま9年とすることが示された。

 現実に沿って想定してみると、24歳〜27歳というプロとして一番伸びてきた時期に、選手はFAの権利を取得できることになる。しかも、移籍できる球団は国内に限られる。つまり、希望入団枠がなくなっても、巨人は他球団で育った選手をFAで獲得できるのだ。これでは、カネにものを言わせて補強していく巨人の手法に何ら変わりはない。

 21日にあったプロ野球の代表者会議には、西武を除く11球団が参加したが、10球団が希望入団枠の撤廃のみで一致したのに対し、巨人だけが「希望入団枠の撤廃」と「FAの短縮」をセットにするよう強硬に主張した。他球団は巨人の意図を察知したに違いない。

 結局、世論に押される形で巨人は翻意し、とりあえず希望入団枠の今年からの撤廃に同意した。だが、根来泰周コミッショナー代行名で出された「ドラフト仲裁案」を読むと、まだこれで問題のすべてが解決したわけではないことは明らかだ。示された8項目の中に気になる記述がある。

 「新制度は、ドラフト制度とFA期間の一体的改正、海外流出対策を念頭に置き、論議を進める」

 「一体的改正」という表現には巨人の強い意向が反映されているのかも知れない。それに根来コミッショナー代行も同調しているようだ。

 おそらく巨人は今後も「一体的改正」を強く求めるだろう。今年からの希望入団枠撤廃が決まったといっても、一件落着とは決して言えない。だが、もはや巨人の“一極支配”は終わったと見るべきだ。成績低迷による人気の低下。テレビ視聴率や放映権料の大幅ダウン。他球団が巨人マネーにしがみつき、巨人の顔色をうかがう時代ではないということだ。巨人も根来さんも、そのことに気づいているのだろうか。

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