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vol.367-3(2007年8月31日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
「ミステリー」では済まない

 世界陸上選手権で日本勢の不振がきわだっている。メダル獲得の期待をかけられた選手が軒並み予選落ちし、その多くが競技中にけいれんを起こすという不思議な現象が続く。今回の不振は、単なる競技力の伸び悩みとか、世代交代の遅れといった問題で片づけられるものではない。

 日本選手団の高野進監督は「選手個々の体調管理だけでなく、チームとして問題があったかもしれない。ミステリーといえばミステリー」などと話している。男子走り高跳びの醍醐直幸(富士通)や男子二十`競歩の森岡紘一朗(順大)らが競技中にけいれんを訴え、男子二百bで2大会ぶりのメダル獲得を目指していた末續慎吾(ミズノ)は1次予選でふくらはぎや背中にけいれんを起こし、点滴を受けた後に臨んだ2次予選でも再び全身にけいれんを起こした。そして、きのう、30日夜の男子棒高跳びでも期待の澤野大地(ニシ・スポーツ)が5b55の2本目にふくらはぎがつり、3本目をパスした後の5b65では全身けいれんでマットに落ちた。

 世界陸上の前には、甲子園(高校野球)でけいれんを起こす選手が続出していた。大会屈指の左腕といわれていた報徳学園の近田怜王が試合の終盤に両足にけいれんを起こして降板。京都外大西のエース本田拓人は、九回に右肩にけいれんを訴えてベンチに戻り、アイシングや水分補給をしてマウンドに戻る一幕もあった。他にもけいれんを起こす選手が多く、大会本部は熱中症の一症状と判断して、各チームに試合中の水分、塩分の補給を促した。

 高校野球なら炎天下で2〜3時間の試合をするのだから、熱中症の診断でうなずける。この時、大会本部に常駐する内科医を取材したが、ナトリウムやカリウムなどの電解質が汗とともに失われて、筋肉がけいれんするということだった。さらに風がなく、蒸し暑さで汗が乾かないため、体温が下がらない。けいれんは熱中症の初期症状ではなく、かなり進んだ状況と説明された。

 単に水分を補給するだけではダメで、ミネラルウォーターも効き目はない。だから、スポーツドリンクを3倍に薄めたものをベンチ裏に置いて、水分とともに塩分も補給させているとのことだった。スポーツドリンクをそのまま大量に飲むと、糖分過多になるため、薄めるのだという。

 世界陸上の日本チーム関係者が行っている措置も、基本的に甲子園と同じのようだ。塩分などの電解質が欠乏するので、筋肉にけいれんが起きるという説に基づき、醍醐や末續のアクシデントの後、選手たちは岩塩をなめているという。だが、それ以外にも何か原因があるのではないか。マラソンや競歩を除けば、球児たちのように炎天下で何時間も競技しているのではない。しかも、陸上のトップアスリートたちが健康管理を怠っているとは思えない。栄養補給にも十分気をつけているはずだ。しかも地の利を生かすべき日本人選手に多発しているのはなぜなのか。

 スポーツ医科学の研究者には、この「ミステリー」の解明に全力を注いでほしい。北京五輪でメダルを獲るためといった目先のことだけでなく、少年少女も含めたスポーツ選手の健康問題として、この災禍をとらえるべきだ。

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