14日に閉幕した明治神宮野球大会の大学の部の決勝、東洋大−早大戦を最後に1人の名審判が引退した。清水幹裕さん、65歳。現役の弁護士である。1966年から審判となり、アマチュア野球をジャッジし続けてきた。
「審判に定年があるわけではないのですが、最近は七回ぐらいから集中力がなくなることが多くなった。トシですし、そろそろ引退しようかと」
東大時代は中堅手。卒業後、司法試験の勉強の「息抜きに」と審判を始めたのがきっかけだった。以来、東京六大学では延べ39年間、甲子園でも00年夏まで20年間、審判を務めた。
清水さんは最後の試合で球審を務め、東洋大・大場翔太、早大・斎藤佑樹の投げ合いをマスク越しに見つめた。六回まで両投手はともに1安打投球。早大が七回から継投に転じて試合が動き、東洋大が2点を挙げて大場の2安打完封で初優勝を飾った。大場は3連投で400球近くを投げ、最後まで気迫のこもった投球を見せた。
「大場君を見ていると、(明大時代の)星野仙一さんを思い出した。気持ちが入っていましたねえ。斎藤君は逆に冷静だった。素晴らしい試合を最後にやらせてもらって本当に感謝しています」
アマチュア野球の世界でも、最近は審判をめぐるトラブルが目立っている。今夏の甲子園の決勝では、ストライク、ボールの判定をめぐって広陵の中井哲之監督がメディアを前に審判批判を展開。秋の東京六大学・早慶戦でも、早大の応武篤良監督がストライクゾーンの判定を批判したのに加え、「優勝争いに絡んでいる明大のOBが球審を務めているのはおかしい」と不満を漏らして問題になった。
確かに記者席から見ていても、おかしなジャッジに出くわすことがよくある。優勝を争うような試合ともなれば、ベンチにいる監督がカリカリすることもあるだろう。
先日、84年ロサンゼルス五輪の金メダル監督、松永怜一さん(76)=元法大監督=の野球殿堂入りを祝うパーティーが東京都内で開かれた。あいさつの最後に松永さんは監督の心得として「審判も仲間だ。批判はしてはならない」と話したそうだ。審判も試合に携わる仲間。ジャッジしているのは、機械ではなく、野球を愛する人間なのだ。松永さんはきっとそういう意味を込めて言ったのだと思う。
神宮球場の記者席裏で、私たちの囲み取材に応じた清水さんは、晴れやかな笑顔だった。弁護士と審判。ともにジャッジに携わる仕事である。清水さんはこう話した。「弁護士の世界には駆け引きがあるけれど、審判にはそれがないのがいい。だから、こっちの方が楽しいですよ。きょうも、最終回に同点になってもう少し試合を続けてくれれば、なんて思いましたよ」。
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