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vol.383-1(2008年1月10日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
3校も途中棄権が出た箱根駅伝

 競技場の純スポーツ空間を走るのとは違って、日常生活空間を走り抜けるマラソンや駅伝は、陸上競技の枠を越えたふしぎな魅力がある。鍛えられた選手たちが、暑い息を吐き、汗を飛び散らせて走ることで、ふだんはただ車の走行や、物の運搬という機能性だけが求められている見慣れた道路が、新しい光がふきこぼれる聖なる道に変貌する楽しさ、とでもいったらいいだろうか。

 去年も正月の箱根駅伝をテレビにかじりついて見た。毎年3区・8区は家の近くなので応援にかけつけるのだが、今年は脚を怪我して入院生活となり、病室でテレビ観戦だった。昨年は驚異の箱根の山登りをした順天堂大学の今井君を見て、七言絶句を一首作った。

 贈箱根駅伝順天堂大学今井正人君

 険路函山年少馳 険路の函山(箱根)年少(若者)馳す
 運来帯子掛肩時 運び来たる帯子(タスキ)肩に掛ける時
 韋駄天到芦湖畔 いだてんは到る 芦の湖の畔
 贏得栄光開笑眉 かち得たり栄光 笑眉を開く

 ところが今年、5区を走った順大の小野選手は、ゴール500m前で倒れ、何度もよろよろと立上がり、懸命に走ろうとしたが、ついに無念の途中棄権となった。仲村監督によれば、「低血糖によるガス欠だ」という。順大は1区でも選手が両脚けいれんで、大きく出遅れていた。

 順大だけではなかった。大東大は9区で脱水症状の選手が棄権、優勝候補の一角だった東海大も最終10区で荒川選手がねんざ(※後に右足首靭帯損傷と発表される)で棄権、史上初の3校棄権という異常事態となった。

 1月4日付毎日新聞がつぎのようにコメントしている。「近年の急速なレベルアップが選手の体調管理に響くという声は多い。大東大の只隈伸也監督は『年間を通じてハードな練習をしないと戦えない。ギリギリの状態。仕方ないが非常に怖い』と明かす。そうした現状に関東学連の青葉昌幸会長は『勝利至上でなく、もっときめ細かく選手を育てるべきだ』と警鐘を鳴らす」

 今や、夏の甲子園高校野球と、冬の大学箱根駅伝は“国民的イベント”となっている。報道も過熱する。冷静になれ、と言うのはやさしいが、選手にとっては至難の業だろう。昨年の世界陸上でも目立ったことだが、競技途中、日本人選手にけいれんなどの症状が出て、日頃の実力を発揮できないケースが少なくなかった。選手たちは1にも2にも、勝つことを目指して練習をする。人格陶冶、などという目標は現実的なものではない。あくまで勝つために練習するはずだ。その選手たちに「勝利至上」以外の目標を与えることはきわめてむずかしい。指導者にとっても、それは容易ならざる目標設定をしなければならなくなる。「勝利至上」以外に、何か現実的な目標はありうるのか。

 私は今必要なのは、「勝利至上」のよしあしを云々することだけではなく、3校も棄権校がでたことを徹底的に検証することだ、と思う。当の選手たちの心身の状況はどうだったのか、練習メニュー、チームの人間関係、食事など体調管理状況など、細かく調べて、情報公開し、各大学の“財産”として共有できるようにしてもらいたい。棄権を恥として隠すのではなく、徹底的に調べつくして、その結果を公開してほしい。そのことが「勝利至上」主義を見直す、あるいは乗り越える確実な道のりだと思う。

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