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vol.425-3(2008年11月20日発行)

岡崎 満義 /ジャーナリスト
クルム伊達と吉田えりに拍手

 最近の二つの快挙。女子テニスのクルム伊達公子選手が、全日本選手権シングルスで16年ぶりの優勝を果たしたこと。もうひとつは、高校2年生の吉田えりさんが、日本で初の女性プロ野球選手になりそうだ、ということ。

 クルム伊達はかつて、ウインブルドンで女子テニス界の女王シュティフィ・グラフをあと一歩のところまで追い込んだ、世界一流のプレーヤーだった。試合は雨で中断、2日にわたった死闘はあまりにも有名だ。しかし、その後26歳という若さで引退、結婚し、以来後進の指導にあたっていた。それが、12年のブランクのあと、あれよあれよと見ている間に、全日本選手権で優勝、奇跡としかいいようのない快挙だった。

 プロの世界で、こんなことがあるのか。にわかに信じられない思いだった。たしかに、40歳を超えても現役をつづけているアスリートがいることはいる。横浜ベイスターズの工藤公康投手がそのいい例だ。これはこれですばらしいことだ。誰でもできることではない。しかし、一度引退し、12年の空白期間をおいて、38歳で再び現役復帰できる「心身」は、怪物的としか言いようがない。夫のミハエル・クルムさんは「優勝したのもうれしいけれど、このレベルで戦い、幸せそうにテニスをやっているのが一番大事。彼女はスーパーウーマンです」(11月16日付朝日新聞)と言っている。クルム伊達のテニス現役再開のモチベーションは、彼女の個性をよく理解してくれる夫の存在に負うところが大きいような気がする。それにしても、12年ものブランクのあとで復帰できる女性アスリートの「心身」のありよう、その条件をくわしく知りたいと思う。

 もうひとつは吉田えり。近畿4チームで来年1月にオープンする関西野球独立リーグのドラフト会議で、川崎北高校2年の吉田投手が、神戸9クルーズから7位指名を受けたことだ。契約がまとまれば、男性チームでプレーする日本初の女性プロ野球選手ということになる。武器は右下手からのナックルボールだという。レッドソックスのウェークフィールド投手のようなナックルボーラーとして、大いに活躍するかもしれない。早速、ウェークフィールド投手から、エールが届いた。「吉田は同投手のビデオを見て魔球をマスター。ニークロ兄弟ら名投手を輩出したナックルボーラーだが、その習得の難しさにメジャーでも絶滅危機にあるだけに、同投手は『自分を目指してくれるのは光栄だ』と後継者の出現を喜んだ。・・・『彼女から学ぶこともあるだろう』と対面できる日を望んでいた(11月20日付日刊スポーツ)」 こういうウェークフィールド投手のコメントを読むと、お世辞であってもうれしい。

 アマチュアチーム(大学)には、かつて日米に女性投手がいたが、プロにはいない。アメリカの小説に「赤毛のサウスポー」という痛快な小説があったが、いよいよ現実に女子プロ選手が出てきそうな雰囲気がある。いずれ、甲子園の高校野球も、女子選手に門戸を開放しなければならない時代が来そうだ。面白いような、恐ろしいような時代になる。

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