名古屋市守山区にある市立守山北中学校のバレーボール部に所属する7人の生徒が、住民票だけを移動させ、別の学区から越境通学していたことが発覚した。同中は昨夏の全国大会で優勝した強豪である。教育委員会が決めたルールを破っていたことは責められて当然だが、なぜこういう事態が起きたのか、その背景を考えることは極めて重要だ。
各紙報道によると、この7人は3年生5人と2年生2人で、愛知県内の別の学区から通学していた。生徒はバレーボール部顧問の働きかけを受け、本人の希望もあって同中バレーボール部OBの自宅の住所に住民票を移していた。学校側も気づいていたが、黙認していたそうだ。ところが、昨年10月に市の教育委員会に情報がもたらされ、調査と指導の結果、今は3人が自宅のある地域の中学校に戻っている。市教委は別の学校でも学区外通学が行われている可能性があると見て調査しているという。
私も別の地域で同じような話を聞いたことがある。一時的に住民票を移して希望する中学校に入り、入学した後は元に戻す。学校側から聞かれても「いろいろ事情があって・・・」といえば、個人情報ということもあり、深くは追求されない。そんな話だ。越境通学する理由の大半が「部活動」である。
部活動における指導者不足が、こんな形で生徒を水面下で流動させている。魅力のある指導者がいる強豪校なら、“裏工作”をしてでも行きたい。それほど生徒や保護者は「学校を選ぶ」時代になってきた。
その傾向は私立中学を受験する子供たちの増加に表れている。公立にしても、義務教育というだけでは機会均等だと考えず、より質の高い環境で教育を受けたいと望む。そんな考えの中に部活選びもあるのだろう。
学区を取り払ってしまうのが一番簡単な方法かも知れない。そうしている地域も一部にあるようだ。しかし、学校間の競争が激化すれば、いずれ人気校に生徒が集中し、逆に生徒が激減して閉校に追い込まれる学校も出てくるだろう。競い合うことで各校の質が高まるという考えもあるが、実際には学校間格差が生まれ、安定した教育環境が提供されなくなる弊害もある。
昨年の高校ラグビーの佐賀県予選で、佐賀工が準決勝の龍谷戦で44トライ、40ゴールを奪い、300−0というスコアで勝利したことが波紋を呼んだ。県立校強化の一環で同校ラグビー部に推薦枠が設けられ、優秀な選手が集中するようになった。私立校との競争、他県との競争がその背景にあった。ところが、その結果、県内では他校のレベルが落ち、実力的には大きな格差が生まれたのである。
公立校も私立校も、少子化時代の競争社会の中で模索している。だが、競争が人気校への集中を加速させ、不人気校との格差を生む。運動部活動に関していえば、強豪校ができる一方で、廃部していく学校が増えるだろう。それがスポーツ界にとって是か非かを考える必要がある。守山北中の一件は、全国で起きている問題の氷山の一角に過ぎない。越境通学していた生徒を元の地域に戻すだけで済む問題ではない。逆に学区撤廃だけで解決する問題でもない。根は深い。
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