スポーツネットワーク
topページへ
スポーツバンクへ
オリジナルコラムへ
vol.393-2(2008年3月21日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
三洋電機に見る企業スポーツ

 三洋電機がラグビーの日本選手権で初優勝を飾った。数年前まではトップリーグの中位に位置していたが、今年はリーグ戦で1位。リーグ戦上位によるトーナメントのマイクロソフトカップでサントリーに敗れたものの、その雪辱を日本選手権で果たしたのである。しかし、本稿ではラグビー部の強化の要因は横に置き、企業スポーツとしての三洋電機を考えてみたい。

 最近の三洋電機といえば、経営の悪化がずいぶんと話題になってきた。ところが、スポーツに目を移せば、女子バドミントンの小椋久美子と潮田玲子、いわゆるオグシオが世界ランキング上位に入って北京五輪の出場権を獲得し、その美貌も相まって全国的な人気を博している。そして、今回のラグビー部日本一。バブル崩壊の頃なら、経営が悪化した企業はこうしたスポーツ部を切り捨て、廃部に追いやっていたはずだ。そんな動きが90年代後半以降、どの企業でも当然のように行われた。

 日本ラグビー協会がトップリーグを設立した2003年、私はラグビーの担当だった。当時はサントリーと神戸製鋼が2強であり、三洋電機の成績は決して振るわなかった。ところが、秩父宮ラグビー場に行くと、入場する前から三洋電機は存在感を見せていた。

 「三洋電機ワイルドナイツ(野武士軍団)」というチーム名とチームカラーの赤に合わせて、秩父宮のチケット売り場付近には赤い甲冑に身を包んだ応援団が観客を出迎えていた。企業チームの応援にしては、なかなか異彩を放っていたものだ。ラグビー部の本拠地は群馬県太田市である。しかし、甲冑姿の武士は「風林火山」の幟などを持っている。後になって知ったことだが、戦国武将の武田信玄にあやかり、山梨県観光物産連盟からも支援を得ていたのである。

 三洋電機には「サンヨービッグスポーツ友の会」というファンクラブがある。会員は社員だけではない。一般に広く門戸を開いている。ラグビー部のホームページによると、46の企業や団体が法人会員となっている。三洋の関連企業だけではない。自動車販売会社やガス会社、焼き肉屋やすし屋まである。地元群馬の団体がほとんどだ。法人会員は1口2万4000円で、個人会員は2400円。決して大きな額ではないが、企業スポーツがその企業のものだけでなく、地域社会にも開かれていることが分かる。

 バドミントン部でもそうだ。オグシオのメディア出演や三洋電機のCM出演ばかりが取り上げられるが、他の部員も地方に出向いてバドミントン教室を行ったりしている。まさに社会貢献活動である。大阪事業所には女子のバレー部もあり、昨年度のV・チャレンジリーグでは優勝を成し遂げ、初代チャレンジリーグのチャンピオンに。こちらは社内では強化スポーツの指定を受けていないが、「仕事とバレーの両立」を目標に競技に取り組んでいる。

 こうして見ると、三洋電機の企業スポーツは多様な価値を生み出している。社会貢献がその一つだが、経営状況が悪化する中で社員の士気高揚や求心力の向上にも大きく役立っているだろう。そして、オグシオは十分に広告宣伝価値を生んでいる。

 長引く不景気の中で、スポーツが企業のお荷物のように扱われた時代はようやく終わろうとしているのではないか。そこには様々な工夫がある。簡単に切り捨てられる存在ではない。それを三洋電機の選手たちは示してくれている。

筆者プロフィール
滝口氏バックナンバー
SAバックナンバーリスト
          
無料購読お申し込み

advantage
adavan登録はこちら
メール配信先の変更
(登録アドレスを明記)
ご意見・ご要望

Copyright (C) 2004 Sports Design Institute All Right Reserved
本サイトに掲載の記事・写真・イラストレーションの無断転載を禁じます。  →ご利用条件