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vol.397-2(2008年4月18日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
ハイ「スピード」水着と公平性の確保

 北京五輪の代表権をかけた競泳の日本選手権が盛り上がりを見せる中、世界の競泳界では英国の「スピード社」が開発した水着が話題となっているという。AFP通信によると、スピード社が開発した「Fastskin LZR Racer」が発表された2月以降、このスピード社製水着を着た選手が世界記録を連発。かなりのアドバンテージが与えられているのではないか、との観測が広まり、イタリアとカナダの水泳連盟は自国での五輪代表選考会で着用を禁止した。

 米国航空宇宙局(NASA)などと共同開発し、受動抵抗を4年前より10%低減したという水着だが、国際水泳連盟(FINA)は、問題となったその優位性について今月初めに声明を発表した。

 「FINAは水着の承認に関して常に問題を調査している。しかし、我々の知識の及ぶ限りでは、スピード社の水着を含むFINA承認のどの水着においても、浮力優位性を証明する客観的な科学的証拠はない」

 五輪前になると、各スポーツメーカーが用具の開発にしのぎを削る。ルールに決められていない部分の用具の発達をどこまで認めるか、どこで禁止するか。その線引きは常に難しいものだ。

 過去の取材で最も驚いたのは、長野冬季五輪のスピードスケート初日のことだった。男子五千bが終わった後、敗れた日本の関係者が怪訝そうな顔をしている。何かと思って聞いてみたら、オランダの選手がレーシングスーツの頭の部分にジグザグ状のテープをつけているという。それが空気抵抗を軽減させていた。取材したところ、オランダは開幕3日前に国際スケート連盟(ISU)にテープの使用を申し出て、許可を得ていた。このため、いくら他の国が「不公平だ」と叫んでも、使用をストップさせることはできなかったのである。ISUもその優位性を調査するだけの時間を持ち合わせていなかった。オランダの巧みな戦略だった。

 今回、FINAの声明が「我々の知識の及ぶ限りでは」と前置きしているように、競技団体の調査では簡単に証明できないほど、メーカーの用具開発は最先端を走っている。水の抵抗や空気抵抗といった分野の開発を、公平性という点でどこまで許容できるのか、競技団体にも見えないのだろう。

 公平性を確保するため、FINAは「メーカーは承認された新しい水着がすべての競技者に利用可能であることを保証しなければならない」と述べている。ところが、皮肉なことに日本代表はこの水着を着用できない。昨年途中まではミズノとスピードが提携していたが、今はその契約が解消されている。次回ロンドン五輪まで日本水泳連盟はミズノ、アシックス、デサントと契約しており、日本代表はそれらのメーカーが提供した水着で北京五輪に臨むことになる。

 メーカーの開発競争、競技団体とメーカーのビジネス契約。あのプールの戦いの裏には、科学とビジネスが複雑に絡み合っているのだ。

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