国立スポーツ科学センターがこのほど、トップアスリート支援に関する研究ジャーナル「JJESS(Japanese Journal of Elite Sports
Support)」を創刊した。アスリートの国際競技力向上について研究者らが論文を投稿し、ホームページで公開。これを年2回ほど、冊子にして配布する予定という。 創刊号には4本の論文が掲載された。中でも関心を持って読んだのは、英国ラフバラ大のスポーツ政策研究所で英国と日本のスポーツ政策を研究する山本真由美さんの論文。テーマは「『先進スポーツ国家』へ? −イギリスのエリートスポーツ政策の分析」である。 2000年シドニー五輪を取材した時、英国の躍進は驚きだった。1996年のアトランタ五輪ではメダル15個。メダル争いの順位では世界36位だったのに、シドニーでは計28個の10位と大きくジャンプアップしたのである。近代スポーツの母国、英国でどんな変化が起きているのか。それは非常に興味深い出来事だった。 山本さんの論文を読むと、国家政策がメダル数に大きく影響を与えたことは明らかだ。80年代のサッチャー政権では公共スポーツの外部委託・民営化が進み、スポーツ環境の衰退が激しかった。しかし、同じ保守党のメージャー政権ではスポーツを専門政策分野として扱う国家遺産省が出来、94年に導入された国営くじ(ロタリー)によってスポーツ界への資金が確保された。 さらには96年に「UKスポーツ」という組織が設立され、くじの収益金が競技力向上の資金として投入されるようになる。それがシドニー五輪での結果につながったといえる。そして、2012年のロンドン五輪開催が決定。英国は同五輪でのメダル獲得数が、世界第4位となるよう目標を定めた。ちなみに、2004年アテネ五輪では1位米国、2位中国、3位ロシア。英国は10位である。 しかし、短期的なメダル獲得が優先され、長期的なスポーツ振興政策との間にずれが生じているのが現状のようだ。山本さんは「2005年7月のロンドン・オリンピック開催決定後、潤沢な資金がスポーツに流れることをイギリスのスポーツ界が期待する一方で、オリンピック施設建設関連費の予算が高騰し、競技スポーツへの資金の集中化、重点化がスポーツの振興を圧迫するという懸念、不満が既に顕著になっている」と述べている。 長期的にスポーツ参加者を広め、競技者を育成していくために何をなすべきか。日本でも同じ課題を抱えている。ナショナルトレーニングセンターの設立によって、トップアスリートを支援していく体制には目が向けられている。しかし、トップにつながる底辺層の環境整備に明確な道筋は見えてこない。 英国ではそうした基盤作りの場として、学校の役割が強調されているそうだ。「スクール・スポーツ・コーディネーター」といった専門家が配置され、学校と地域クラブをつなぐ責務を負っている。学校スポーツと地域スポーツをどう連携させていくか。そこにトップと底辺をつなげるヒントがある。2016年の夏季五輪開催に東京が名乗りを挙げている。英国の取り組みは、日本スポーツにも大きな参考になるはずだ。 |