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vol.405-2(2008年6月13日発行)
滝口 隆司 /毎日新聞大阪本社運動部記者
またも陸上界を襲うミステリー

 陸上女子長距離のホープ、絹川愛(ミズノ)が原因不明のウイルス感染で北京五輪の代表選考会である日本選手権(26〜29日、川崎)の出場を断念した。

 絹川は仙台育英高に在籍していた昨年12月頃から体の異変を訴え、骨盤の右側と左側を疲労骨折し、今年2月には左ひざにも激痛を感じ、痛みの部位が次々と転移して歩くことさえ困難になった。社会人になった今春以降のレースの出場も次々とキャンセル。4月に都内の病院で血液検査をしたところ、赤血球や白血球を変形させる国内では未知のウイルスが発見されたという。

 絹川は自身のブログで、現在の状況を次のように語っている。

 「私は左膝がいたく今走れる状態にありません、その原因は中国合宿によるウイルス感染ではないかとされています」「今の状態ですが、とりあえず6月末の日本選手権への出場は困難であり、北京への挑戦はあきらめなければならなくなりました。私としてはやはり戦わずして負けるのは悔しいです、だけどこれが現実なのだからしっかり受け止めて、次の目標に向かって歩きだしたいと思ってます」

 このコメントにも示されているように、担当医は昨年3月に行った中国・昆明での高地合宿でウイルスに感染した可能性がある、と診断している。ただし、各紙報道を見ても、この合宿が原因と判断できる材料は乏しく、日本陸連も昆明での感染には「根拠がない。科学的な裏付けを取る必要がある」との見解を表明した。とはいえ、絹川の担当医の診断をすべて否定できる根拠がないのも事実だ。

 さらに驚きは、日本陸連が過去にも同様の症例が2件あったことを明らかにした点だ。この2人は昆明には滞在しておらず、感染先を特定するのは難しいと見られているという。2例の詳細は分からないが、少なくともこれは絹川だけではなく、陸上選手の競技環境に何か共通した問題なのではないだろうか。

 昨夏の世界選手権大阪大会では、日本選手が次々と競技中にけいれんを起こす不可思議な現象が起きた。この時、日本選手団の高野進監督は「ミステリーといえばミステリー」と表現していたが、結局、あれは単なる熱中症のけいれんだったのだろうか。その点もまだ明確には解明されていないといっていい。

 今、陸上競技だけでなく、トップアスリートの世界では技術力を磨く以上に、身体能力をいかに上げるかに知恵が絞られているように映る。高地や低酸素室でのトレーニング、各種サプリメントの摂取・・・。そうして科学的に血中の酸素運搬能力を高めたり、筋肉量を増大させたりする。

 今回のウイルス感染の原因が、高地トレにあるのか、中国での生活にあるのか、体内の血液成分の変異にあるのか、もっと別の部分にあるのか、現状では全く分からない。だが、複数の陸上選手が原因不明の感染症にかかるという「ミステリー」は、アスリートの強化に何らかの警告を与えているように思えてならない。

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